お金の「民主化」と新しい信頼のかたち〜Vol.16「マネー」特集に寄せて

写真拡大

2015年5月11日発売の『WIRED』日本版VOL.16「お金の未来(と、かわりゆく世界)」。つきつめれば組織や社会、はたまた国家の成り立ちにまで遡る人類が生み出したシステム。そんな「お金」の未来を探るヒントは、そもそもなぜ人はお金を生み出したのか、を考えることで見えてきた。本号発行に寄せ、弊誌編集長からのメッセージ。

「お金の「民主化」と新しい信頼のかたち〜Vol.16「マネー」特集に寄せて」の写真・リンク付きの記事はこちら

マウントゴックスが経営破綻をし、世界中の注目を浴びたのが、1年ほど前のこと。事件の舞台となった本社オフィスがあったビルは、何を隠そう(べつに隠してはいないが)『WIRED』擁するコンデナスト・ジャパン社擁するビルのおとなりさまで、その話題がメディアを賑わせていたころ、ぼくはといえば、編集部の最上階にある(おそらく渋谷一素敵な)屋外喫煙所で、他部署のスタッフから「おとなりさん取材に行ったほうがいいんじゃない?」などと唆されつつも、「んー、そーねー」などと適当なことを言ってお茶を濁していたのだった。

有り体に言うと、ビットコインというものがよくわかっていなかったし(いまもおぼろげだ)、マウントゴックスの破綻がビットコインやお金というものをめぐって面白いテーマを投げかけていたようにも思えず、なんとなく(そう、ただなんとなく)、勘で(そう、勘で)、深く考えることもなく、まずは、うっちゃっておくことにしたのだ。「なんとなくうさんくさいよね」という感じだけを残してビットコインなる野望は消え去ったか、と、ぼくもまた、おそらく多くの人が思ったように感じていた、というわけだ。

今回、お金の特集をやろうと思い立ったのは、そういうこととはあんまり関係がない。『WIRED』日本版では、これまでさまざまな話題を特集として取り上げてきたが、「会社」にせよ、「ゲーム」にせよ、「教育」にせよ、「音楽」にせよ、「行政」にせよなんにせよ、基本的なモチーフは、「そこにデジタルが介入することで、それまでその『業界』を構成してきた中央集権的なヒエラルキーは解体(は言い過ぎなら再編成)を求められるようになる」というもので、それは、どんな分野を扱っても、判を押したように同じだったりする。

そうなってくると、今度は逆に、「従来のヒエラルキーがなかなか壊れなさそうなところってどこだろう」と目配せをするようになっていく。参入障壁がことさら高く、「中央の権威」というものがガチガチに堅牢で「民主化」がなかなか起きなさそうなところを探してあたりを見回してみると、ありましたありました。「お金」と「医療」。これでしょう。

そんなところから、まずは「お金」を特集してみよう、となったわけだが、浅はかなぼくはといえば、なんとなく「銀行」というものが、中央集権の権化として「民主化」のターゲットになっていくんではないかという、うっすらと見通しを立てていた。けれども、色々と調べたりしていくうちに、どうも興味の焦点はそこではないことがわかってきた。じゃあ、どこがターゲットなのかというと、どうやら「通貨」という概念そのものだったのだ。

本特集に寄稿してくださった池田純一さんの文章から引用させていただくと、こういうことになる。

…暗号通貨もペイメントも、昔からあったマネーの扱い方への願望を、見事に実現しようとする。その点では極めて社会的に意義があるものだ。

ただ、それらが「マネーの未来」の全てかというと、どうも違和感がある。多分、その違和感の理由の一つは、暗号通貨にしてもペイメントにしても、『マネーの未来』といいながら、その実「通貨の未来」だからなのだろう。『マネーが流れる仕組み』の変容としてマネーの未来を捉えている。つまり、もっぱら『フロー=流れ』として扱っている。

(…中略…)しかし、それだけなのだろうか。マネーの未来とは、通貨の未来しかないのだろうか

いうまでもなくビットコインに代表される暗号通貨は、「一国一通貨」という制度に対する挑戦とみなすことができる。そこから「ビットネーション(ビット国家)」などという勇ましい構想さえもが呼び起こされることになるわけだが(本誌参照のこと)、いったん既存の「通貨」という概念に疑問が呈されはじめると、ことはかなり大掛かりに厄介になってくる。つまり「お金」ってそもそもなんだったんだっけ?という話に行き着いてしまうのだ。

ビットコインなどの暗号通貨を、ときに「仮想通貨」なんて呼ぶが、よくよく考えてみれば、単なる紙切れをいそいそと交換していることからしてすでにヴァーチャルな営為であって、「お金」というもののヴァーチャル性の本性をつきつめて行こうとすると、話は古代史よりももっと古い人類史へと分け入っていかねばならぬ事態になる。人はなぜお金を必要としたのだろう? その起源は? なんてことを考えることは、人間社会、組織、共同体、国家といったものの成り立ちを考えることにも等しい。

こうしたことを踏まえつつ、現在「お金」というものをめぐって起きている(または起こりうる)さまざま事象を眺めていくと、どうやら、ぼくらは、人類がそもそも「お金」というものを生み出すにいたった動機をいま改めて追体験しながら、人と人との間を流れてゆく「お金」という得体の知れないなにかと、それが流れていくための仕組みを(局所的にではあれ)いまいちど再編成しうる局面にあるようにだんだん思えてくる。

ビットコインの話も、そうした大転換の端緒として見るなら、なるほどたしかに面白い。図らずも特集を貫くキーワードは、「信頼」という言葉だったりするのだが、暗号通貨のありようを「信頼」と「認証」のまったく新しい仕組みづくりだと見れば、シリコンヴァレーあたりの大物たちがいま改めてビットコインの重要性を喧伝している理由も納得いくかもしれない(つい最近、あのウォズがビットコイン・スタートアップに参画したなんてニュースも入ってきた)。

マウントゴックス事件なんかとは関係なしに、「お金」というものが、ぼくらのよく見えないところで根本的に変わりはじめているのだとしたら、それは取りも直さず、ぼくらの社会、いや世界が根底から変わることを意味する。こんな重大事を前にすれば、マウントゴックスの破綻があくまで副次的なイシューだったことは、おのずと知れてくる。「お金」と「通貨」はもはやイコールではない。なんと奇妙な世界の入り口にぼくらは立っていることだろう。

『WIRED』VOL.16「お金の未来(と、かわりゆく世界)」
Amazonで購入する>>

ペイメントを変えうる“未来のカード”・Stratosなどへの取材から見えてきた、お金と支払いと経済の未来とは? 一部では「もはや終わった」とさえいわれる暗号通貨ビットコインを軸に、新たなテクノロジーがマネーそのもの、あるいは世界の経済に対してもたらす可能性を追求する。特集の詳しい内容はこちら。

TAG

BitcoinEditors LetterMagazineMoneyVol16