声優の仕事の広がりや奥深さについて、熱いトークが繰り広げられた黒川塾(二十五)

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「街を歩いて声が聞こえると、それは声優の仕事」

コンテンツ研究家の黒川文雄主催で行われた勉強会「黒川塾(二十五) エンタテインメントの未来を考える会 声優は一日してならず…声優事情変遷史」では、声優業界の知られざる側面や仕事論について議論されました。登壇者は「ドラゴンボール」のピッコロ大魔王役などで知られる古川登志夫。「ふたりはプリキュアSplash Star」の美翔舞役などを演じた榎本温子。業界最大手の青二プロダクションでマネージャをつとめる池田克明、81プロデュースのマネージャ百田英生です。

いわゆる「アイドル声優」が注目を集める昨今。しかし池田はテレビやラジオのCMナレーション、館内ナレーション、カーナビの音声、はたまたプロレスのリングアナや、電車の車内放送なども声優の仕事だと明かしました。事実、JR東日本や東京メトロなど、車内放送の多くでボイスを担当しているのは同社所属のクリステル・チアリ。池田は若い頃に街を歩きながら「営業先がたくさんある」と興奮したというエピソードを披露しました。

一方でアニメ声優に限定しても、仕事の幅はどんどん拡大中。榎本は「新人で歌やイベントがNGなら仕事が難しい」と明かしました。デビューして18年目ながら、すでに2~3回くらい仕事の仕方が変わったと言います。最近ではニコニコ生放送の影響力が大きいとのこと。「今でも敬遠する声優が少なくありませんが、積極的に受け入れることにしました。プロとアマの境界線が曖昧な世界だけに、プロとしての魅力を表現していきたい」(榎本)。配信時代を迎えて業界のあり方から変わっていくため、仕事も変えていく必要があると語りました。

古川は録音技術の進化によって演技の仕方も変わってきたと指摘。昔は声を大きく出せと言われましたが、今では囁くような声でもマイクで拾えるようになり、時にはそうした演技を求められることもあるといいます。実際、学園物アニメの「たまゆら」では若手に混じってベテラン声優まで、囁くような演技をしていたのだとか。それをみて古川氏も「10代の女子の繊細な感情を表現するには、メリハリの付いた声ではダメなのでは?」と推測したそうです。「監督に確認したところ、その通りですと言われました」(古川)

ポイントは変化に対応していくこと、その中で自分の個性を失わないこと。古川は(古川ですら!)「どんな仕事でもオールマイティにできるようにした。でなければ将来にわたって安定的に仕事をしていくのは難しいと感じた」と言います。その上で、台本でどこか自分なりのプラスアルファを入れるようにしていると「企業秘密」を紹介。「悪役だったら、反対の善なる部分をどこかに加える。その積み重ねでキャラクターが魅力的になる」と説明し、「北斗の拳」のシンの台詞「俺が欲しかったものは一つ、ユリアだ」を演じました。

これに対して「18歳でデビューして(「彼氏彼女の事情」で)主役を演じて、今から思えばシンデレラストーリーだった」という榎本は、「自分の経験を出し惜しみなく投与すること。アニメーションは監督のものだと思っているので、なるべく監督の表現に近づきたい」と解説。またゲームやナレーションは1人で録音するが、アニメの収録は一度に複数の声優がスタジオに入り、そこで芝居のやりとりができるのが魅力だと語りました。「現場ではコンテ撮の映像を見ながらでも、人が死んだり感動したりしなければいけない。すごく匠の技だと思います」(榎本)

アニメや洋画で、芸能人やタレントが宣伝目的で起用されることの是非についても議論されました。黒川は「目をつぶって聞いていると、声があっていないのが如実にわかる」と言います。これに対して池田は「漫画のアニメ化の際にイメージと声が違うなど、突き詰めると声優同士でもそういったことはある」とコメント。また最近は横展開をしやすいように、スケジュールが比較的とりやすい若手声優で戦略的に固めることもあると語りました。

また百田は「収録はサンプリングではない。声優同士で芝居をすることで、スタジオで化学変化が起きることもある。しかしタレントはスケジュールの都合などで、1人で録音することも多いので、これが浮いて聞こえる遠因にもなっているのではないか」と解説。古川も「海外ではほとんど個別録りで、日本のサブカルコンテンツで人気が高いのは、さもありなん。台詞のかけあいを実際にしながら収録する日本のやり方は、世界に誇るべき手法」だと補足しました。

最近では年に10回程度も海外のコンベンションにゲストとして呼ばれるという古川。言葉が分からないにもかかわらず、どこでも熱狂的なファンに迎えられるといいます。池田は「『ドラゴンボール』のプレミアム試写でLAに行くと世界40カ国・地域を越えるメディアに迎えられて驚いた」と語り、日本の国益にも繋がっていると指摘。一方で「アニメの殿堂」的な施設がない現状にふれ、ぜひそうした施設を作ってアフレコの収録現場などを公開し、海外の人を驚かせたい。それが日本のソフトパワー拡大にも繋がると言います。

これについては黒川も自ら宣伝活動にかかわった、東京タワーで開催中の「東京ワンピースタワー」について触れ、来場者も好調に推移していると紹介。そうした施設も実現の可能性が高いのではないかとコメントしました。池田は同イベントが芸能プロダクションのアミューズの肝いりで実現した点に触れ、本来はアニメ業界からこうしたアイディアが出てこなければいけないとコメント。実現の可能性を信じて、さまざまな人に声をかけて回っているところだと語りました。

「声優は煌びやかに見えるかもしれないが、思った以上に普通の世界」だと語る榎本。歌やイベントなどもさることながら、スタジオワークが好きで声優の仕事をしている。苦労もたくさんあるが、それ以上に素敵な部分もあるからやっていると説明し、夢のある仕事だが覚悟も必要だといいます。古川も「最近は過熱気味ともいえるほどの新人発掘熱だが、逆にそれだけ敷居が下がっていることも事実で、恵まれているところもある。ぜひ、がんばって欲しい」と締めくくりました。
(小野憲史)