「今日はホルヘの日だったよ」

 第4戦スペインGPの決勝レースを2位で終えたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、自分たちを一方的に引き離して優勝を飾ったホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)に対して簡潔な賞賛の言葉を贈り、完敗を認めた。

 実際、ロレンソは今回のレースウィークの金曜午前フリープラクティス1回目から、他を圧倒する速さと高い安定感を発揮し続けた。ほぼ全セッションでトップタイムを記録し、土曜午後の予選ではサーキットの最速タイムを塗り替えてポールポジションを獲得。日曜午後の決勝レースでも最速ラップ記録を更新しながらあっという間に後続を引き離し、完全にレースをコントロール。終わってみれば、過去の総レースタイム記録を20秒上回るという圧倒的なペースだった。

 ロレンソは開幕戦から第3戦まで4位、4位、5位と、不振とは言わないまでも微妙な噛み合わなさで表彰台を逃していた。だが、今回のスペインGPはホームグランプリということもあり、自分の持ち味を最大限に発揮して今季初優勝。満を持してチャンピオン争いの舞台に踏み込んできた印象を強くする勝ちっぷりだった。

 これで2015年シーズンはチャンピオン候補たちが、一度は優勝を収めたことになる。開幕戦カタールGPと第3戦アルゼンチンGPはバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)、第2戦アメリカズGPはマルケス、そして第4戦はロレンソが優勝した。

「4強」の一角、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)は、開幕戦終了後に右腕の手術を実施し、第2戦以降は欠場が続いている。年間総合優勝争いから大きく出遅れてしまった格好だが、このあたりの巡り合わせの悪さや運のなさは、いつもチャンピオンに手が届きそうで届かないペドロサの〈薄幸〉を象徴している印象もある。

 それにしても、今季ここまでの戦いで特筆すべきは、36歳のロッシの完全復活である。過去2年は、現在22歳のマルケスが早熟の天才ぶりを遺憾なく見せつけて連覇し、話題の中心に踊り出た。ロッシはスーパースターの健在をアピールして世界中を喜ばせてきたが、マルケスの引き立て役のような位置にいた感は否めない。

 だが今年は、ロッシがチャンピオン争いの中心にいる。ここまでの4戦で2回の優勝を含む全レース表彰台(優勝2回、3位2回)で82ポイントを獲得、先頭に立っている。

 ロッシは1996年に17歳で125ccクラス(当時)デビューを飾って以来、125cc、250cc、そして最高峰の500ccとMotoGPクラスで計9回、世界チャンピオンの座に就いた。2013年と2014年はマルケスに対して挑む姿勢を保ち続けてはいたものの、「彼と互角に張り合うのはかなり難しいけれども、決して不可能でないと思う」と言うように、マルケスに一歩及ばなかった。しかし、今年は開幕戦から二十代の頃の最強時代に劣らない強さを見せている。

 なぜ、そこまでして勝ち続けることができるのか。

「今は肉体的にも精神的にも100%で、うまく乗れない理由が見いだせないくらいなんだ。そうなると、あとはモチベーションの問題になる。『もうこれ以上はリスクを犯したくない』とか『そろそろゆっくりとリラックスしたい』とかね。でも、自分の場合はレースが好きだし、世界を転戦しながら戦い続けることも楽しい。ヤマハやチームの皆との仕事は、とても充実しているんだ」

 そして、レースを続ける決定的な理由として、こうも言う。

「勝利の味はいつも格別だ。だから、それを味わうためにずっと走り続けているんだ」

 ロッシはこれまで、ライバルたちと数々の遺恨や確執があり、さまざまな摩擦をコース内外で繰り広げてきた。そして、それを面白がって取り上げるメディアの論調さえも自分の味方につけて、競争相手をさまざまな手法で精神的に追いつめていった。

 もともと仲の悪かったマックス・ビアッジ(98年、01年、02年ランキング2位。12年引退)はもちろん、非常に良好な関係であるかに見えたセテ・ジベルナウ(03年、04年ランキング2位。06年引退)に対しても、ある時期を境に、〈つぶす〉という言葉が妥当なくらいの徹底的な追い込みをかけた。ドゥカティ時代のケーシー・ストーナー(07年、11年チャンピオン。12年引退)とは、相手が向こう意気の強い性格であることも手伝って、熾烈な火花を散らした。

 ところが、現在の最大のライバルであるマルケスとの間には、そのような気配は見られない。第3戦のアルゼンチンGPでは、ラスト2周で激しいトップ争いの最中にロッシのリアとマルケスのフロントが接触して、マルケスが転倒する事態が発生した。前を走るロッシが意図的にラインを変えたことで、マルケスは結果的に転倒してしまったのではないか、とも憶測され、「ロッシとマルケスが冷戦に突入するのでは?」と選手の対立を好む一部メディアがあおり立てようとした。

 しかし、ロッシとマルケスはともに「良好な関係性は変わらない」と軽く受け流して、メディア側の挑発には一切乗ろうとしなかった。シーズンが進んでチャンピオン争いが熾烈になっても、両者はこの関係と距離感を維持できるのか、あるいは何らかの変化が兆すのか。その推移にも注目が集まるかもしれない。

 4戦を終えてチャンピオンシップポイントの首位はロッシ(82ポイント)、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ)が2位(67ポイント)、3位にロレンソ(62ポイント)。

 4位のマルケス(56ポイント)はやや出遅れている感もあるが、「そりゃあ30ポイント引き離されているよりは、リードしているほうがいいに決まっているけど、たとえば2013年は6戦目を終えた段階でかなり獲得ポイントを引き離されていた(※)。だから、今もプレッシャーは特に感じていないよ」と、さほど心配するような気配は見せていない。
※2013年第6戦イタリアGP終了段階では、ペドロサが123ポイントで首位、2位のロレンソは116ポイント。マルケスは93ポイントでランキング3位につけていた

 2015年シーズンはヨーロッパラウンドを迎え、今後の戦いはロッシ、ロレンソ、マルケスがそれぞれの持ち味を発揮して、正面からぶつかりあう展開になるだろう。マルケスひとりが主役をつとめた昨年や一昨年とはひと味もふた味も違う、モーターサイクルスポーツの醍醐味に充ちたスリリングな戦いが待ち受けている。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira