4月某日、とある企業の新人歓迎会。40代後半の課長は厳選した有望な新人たちを前に満足げな笑みを浮かべていた。
「よし、まずはみんなで乾杯しよう。すみません、生ビール15杯下さい!」
 すると新人のひとりがこう切り出す。
「あの、ぼくビール飲めないので、カシスオレンジください」
 他の新人もこれに続く。
「ぼくも、カルアミルクがいいです」
「ぼくは、ピンクレモネードもらってもいいですか」
 先に運ばれてきたビールの泡とともに課長の意気も消沈していった。

 酒を飲まない、飲んでも苦いビールやハードリカーを嫌う若い世代の登場はここ数年、話題に上ることが多くなった。酒だけではない。華奢な体に張り付くような細身のスーツに、色白の風貌。整えられた眉に、滑らかに磨かれた爪。グルメ話はお得意だが、プロ野球はチーム名すらおぼつかない。彼らに対してオジサン世代の間では「女々しい」「情けない」など、「それでも男か」と言わんばかりの常套句が交わされるが、そんな決まり文句はもはや断末魔の叫びでしかないのかもしれない。

「マイルドヤンキー」の生みの親にして『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』(角川書店)の著書もある原田曜平氏(博報堂ブランドデザイン若者研究所)は15年に渡り1万人の若者を調査してきた。その成果を著した最新刊は題して『女子力男子』(宝島社)。表紙には「豆乳でアンチエイジング」「みだしなみアイテムが入ったポーチ」「ムダ毛は許せない」「パンツは形がいいからレディース」などと注釈された男性像が描かれ、「女子力を身につけた男子が新しい市場を創り出す」と宣言されている。つまりオッサンの嘆きをよそ目に、「次世代をになう」新しい男性の在り方としてポジティブに取り上げているのだ。本書ではその論拠を、実例を挙げて紹介している。

 大きな背景の一つとして、女性の場合、雇用機会均等法時代の「キャリア女性」、その後の「バブル女性」らは消費意欲も社会進出志向も強かったのに対して、いまの「ゆとり世代女性」は専業主婦志向が高まるなど保守化傾向にある。

 反対に若年男性は雇用の不安定化や低賃金化が逆に功を奏し、より自分自身のためにお金を使うようになった、という。例えば、良し悪しは別として「彼女」のいない男性が増え、女性と飲食しても「割り勘」に抵抗感がなくなりつつある。結果として「自分磨き」など、それまでなかった男子の新市場に投資する男性が増えた。化粧品であったり、料理のためのキッチングッズであったり、女子力を獲得した男性が消費の中心に踊り出つつあるのだという。加えて、従来型の男女の「役割」も変化し、妻が働き夫が「主夫」を務めるケースも、少数派ながら存在する。「男らしさ」「女らしさ」という抑圧は次第に過去のものとなり、女子力男子はその象徴でもある。

 これを端的に表すのが「流行語大賞」。「草食男子」「弁当男子」「乙男(オトメン)」(2009年)、「イクメン」(2010年)、「日傘男子」(2013年)などなど。
〈戦後のマッチョなで肉食な男性像とは一線を画し、女性寄りの特性を持った男性の増加を表わした言葉です〉と著者は綴る。それらの語感には確かに「新たな市場」の気配がうかがえないだろうか。

 消費以外にも、家事や料理を能動的にこなす彼らは、旧来型の男性にはない日常的な生活力が備わっている。その価値観ゆえ女性と共通の話題やコミュニケーションも豊富、このスキルはビジネスやマーケティングの分野において大きな武器になり得るらしい。

 なんだかいいことづくめなんじゃないだろうか。そこで本書に登場する彼らの生態を覗いてみると......。
大阪府の私立大学に通う、一人暮らしのA君の部屋は整理整頓が行き届いている。窓にかかるベージュのドレープカーテンは、彼がミシンで縫った自作だ。
「一人暮らしに持ってこなあかんのは、家庭科の教科書。ゲームでもテレビでもない!」
 と豪語する。料理の腕も友人の間では有名で、夏は冷製パスタ、冬は出汁からとった鍋がおもてなしの鉄板メニューなのだそうだ。ただ、あまりに本格的ゆえ、ホワイトデーの日、付き合っていた彼女にタルトを焼いて持って行ったところ、「なんでこんな(すごい)の作るん?私の立場どうなる!」とキレられてしまい、別れることになる。本物の女性(当たり前だが)までもが敗北感を抱く、すさまじい女子力だ。

 さいたま市で一人暮らしをする国立大学生のB君が凝っているのは、弱冠20歳にして「アンチエイジング」だ。冷蔵庫には無調整の豆乳が大量に並び、一日70咾離ぅ愁侫薀椒鸚歇茲魴腓さない。
「イソフラボンは、女性ホルモンに近い働きをするそうなので、若さを保つのにいいかなと思って」とことも無げに言うB君。アンチエイジングのために化粧水や乳液を使い、肌荒れを隠し、日焼けを防ぐために3,000円超のファンデーションをバッグに忍ばせている。さらにはペンシルタイプと筆タイプのアイライナーまで使っている。浴室にはシェービング剤とメーク落としが同居する。

 とある会社の新入社員C君の私服はピタリとフィットするレディースのスキニーパンツだ。当初、よく行くユニクロではメンズのスキニーの取り扱いがなく、最初は躊躇しながらレディースの試着をしたのがきっかけだった。以来、太めの形が多いメンズと違って、種類やバリエーションが豊富なのに価格の安いレディースを必ずチェックするようになった。身長172センチ、体重58キロの細身の体系を維持するため、500グラムでも体重が増えると空腹をこらえて夕食を抜いて眠る。カロリー計算も習慣になり、食べ物をみれば大体のカロリーがわかるまでになった。こうくるとオジサンは「女装したいのかな」「オネエなのかな」などと思ってしまいそうになるが、彼は自分の価値観に合う服を選んでいるだけだ。

 著者はこうした「女子力男子」の様々な在り様を4つにグループ分けして分析している。第1のグループは「美」をツールとして他者からのリアクションを求めるタイプで、代表的なのは化粧や肌の手入れを怠らない「ビューティー男子」。化粧品CMで俳優の向井理が演じた「肌男」が典型だが、著者が行った調査では81人中51人が「化粧水を使用している」と答えたという。中には「顔にけが生えてくるだけで嫌悪感」を抱き、髭どころか産毛が生えてくるだけでピンセットで一本一本抜いていた人もいる。Kis-My-Ft2で舞祭組の千賀健永も先日放送された『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)で、化粧水11本を使用し、美顔器でお手入れする様子を披露していた。

 化粧品をポーチに入れて持ち歩くのが「化粧ポーチ男子」。いきなり外泊することになっても、コスメを常に携帯していれば安心なのだという。なんだか「お泊り」になだれ込んだ女の子が、デート途中にコンビニで替えパンツをこっそり買うのと似ているような。実際、男子同士で互いにポーチを見せ合って盛り上がったり、急に会うことになった女子に貸してあげる例もあるそうだ。

 女子の専売特許を奪う勢いなのは「ぶりっこ男子」。俳優でモデルの千葉雄大がその代表だという。特徴的なのは「萌え袖」なる仕草。長袖で手の甲を隠して、指先だけがのぞいている状態を指す。かつて女優の裕木奈江のトレードマークとして知られた、あの仕草だ。さらにここで登場する男性は写真を撮るとき「萌え袖」状態の両手をグーやチョキ、パーにして両頬にくっつけるという、恐るべきぶりっ子ポーズをとるという。その写真をLINEのプロフ画像にする徹底ぶりだ。

 第2のグループはかつては女子が担っていた領域を得意とし、それを周囲にアピールする男子。料理を得意とする「もこみち男子」「パティシエ男子」「スイーツ男子」がその代表だ。速水もこみちだけではなく、V6の坂本昌行も番組で料理コーナーを務めている。意外なところではフィギュアの織田信成はパンケーキ通で知られ、ショップ巡りだけではなく玄人並のパンケーキを焼くほど。
「彼女の喜ぶ顔を見たいから、作ってあげたい。実は料理では彼女に負けたくない気持ちもある」と語る大学生は、ピザは小麦粉をこねて生地から作り、クリスマスケーキもお手製。ホワイトデーには「プールドネージュ」(砂糖をまぶしたクッキー)をプレゼントする。彼女は「私よりも女子力がある」と嬉しそうに言う。女性として居心地が悪いと思いきや、「いまは昔より格段に、こうした男子の女子力が市民権を得ているのです」と著者も言う。

 他にもカフェ通いにハマる「カフェ男子」、女性特有の過剰な自意識「リア充アピール」をツイートする「キラキラツイート男子」もこのグループ。

 第3グループは第1グループと違い、自己満足型の「美」を追求するタイプ。きゃりーぱみゅぱみゅを目標に、自分基準の「カワイイ」を重視する「カワイイ男子」の一例は、花柄のスマホカバーを愛用し、フィンランドの人気ブランド「マリメッコ」ポーチに花のキーホルダーをつけている大学生。見かねた元軍人の祖父は直筆で「軍人勅諭」を書いて送ってきたというが、それすら花のポスターと一緒に壁に貼っていたという......。hydeやカリスマホストのビジュアルに憧れる「V系男子」、非喫煙は当たり前で、減塩、減油にこだわるなどストイックに健康志向を貫く「ヘルシー男子」もこのグループ。究極はネタやノリではなく継続的に普通の女子の私服を好む「女装男子」なのだそうだ。

 第4グループは第2グループの自己満足型。代表的なのは「ぬいぐるみ男子」で、自室に「くまのプーさん」のぬいぐるみをたくさん飾っている、フィギュアスケートの羽生結弦がその代表。都内の大学生はディズニーランドの年間パスポートを持ち、月5万円のアルバイト代のほとんどをぬいぐるみをはじめとしたディズニー・グッズに費やしているという。お笑い芸人ピスタチオの小澤慎一朗も昨晩の『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)で、ただならぬスヌーピー愛を披瀝していた。このジャンルには「少女マンガ男子」や「アロマ男子」が存在する。

 ところで下世話ながら気になってしまうのは、女子力男子は当の「女子」からはどう思われているのだろうか? モテるのか、キモがられてるのかという素朴な疑問だ。本書では「女性も理解を示すケース」がいくつか登場するのだが、先日、興味深いテレビ番組があった。4月12日に放送された『美女たちの日曜日』(テレビ朝日系)では「女子力男子」の是非について女性コメンテーター12人(約一名は戸籍上男性)が討論。結果、意外にも「あり」と「なし」が半々と拮抗したのだ。「あり」派はと言うと、
「男一匹ガキ大将みたいな男と付き合って疲れた」(秋野暘子)
「(これまで)付き合った『男気』みたいな人とはうまくいかなかった」(新山千春)
「適度に(女子力が)あったほうが年齢上がってもキレイ」(IKKO)
 という、旧来のマッチョな男性像を否定し、新しい価値観を受容する姿勢を感じさせるものだったが、「なし」派の言い分は、
「男はやっぱりオスでいてほしい。(女子力男子は)子供できそうじゃない」(安藤和津)
「永久脱毛とか......そこまで行くと怖いよー」(三船美佳)
「ちっちゃいこと気にしてるヒマあったら、もっと大きな感じでいてほしい」(いとうあさこ) 
と、まあ、なんだかオッサン的メンタリティが匂う発言に終始したのであった。蛇足ながら離婚問題の渦中にいる三船と新山が正反対の反応を見せたのがなにやら味わい深いのだが。

 女性からの目線だけではない。同性(つまり男性)からの評価は、意外にもさらにわかりやすい。スポーツ担当の新聞記者はこんなことを言う。
「オリンピックに出場するアスリートたちの海外事情に関する知識はスポーツ関連に留まらないし、サッカー選手も欧州の文化や風習に詳しい人が多い。でもさ、日本のプロ野球選手なんて、クルマとオンナとマンガの話しかしないからね。試合の後は、焼肉喰ってカラオケ行ってキャバクラで大騒ぎ。もうバカじゃないかと」
 女子力男子の先進性と比べると、まるで絶滅寸前の大型肉食恐竜を彷彿とさせる。

「消費」の観点から言ってもクルマ、バイク、タバコ、酒、パチンコと言った「男性型商品」の支出は右肩下がりに減少し、男性フェイスケア商品やボディケア市場は拡大の一途で、しかも飽和状態の女性向け市場に比べて、まだまだ開拓の余地が残されていることを本書は報告している。しかも日本発のこの傾向はアジアに飛び火し、中国では草食男子を表わす「小男人」が流行語になり、割り勘(中国語で「AA制」)も若い世代では広まっているという。女装する男子「偽娘」の登場も話題になった。

 となれば女子力男子市場は日本はもちろん、まだ限定的であるにせよ国際的に拡大する「伸びしろ」があるとも考えられる。大変なビジネスチャンスが埋もれているかもしれない。そんな可能性を示唆しながら、著者はこう呼びかける。

「私もまさにそうですが、中年男性は意識的に、消費の主役に近づきつつある女子力男子に学んでいかないといけない時代になっているのです」

 近い将来「女子力オヤジ」「女子力爺」が現れるのか? ない話ではなさそうだ。

 そもそも女子力男子に違和感を覚えている今の中間管理職世代(40代後半から50代)の人々は、すっかり忘れてしまっている。自分たちが社会人デビューした時に世間から「新人類」(86年流行語大賞)と呼ばれたことを。サブカルに傾倒し、カイシャよりも個の在り方を尊び、ブランドファッションに身を包み大箱ディスコのドレスコードを潜り抜け、「アッシー」「メッシー」として自らの存在理由を見つけたことを。思いっきり社会に違和感をぶちまけ、既存の価値観をことごとく否定していたのが他ならぬ自分たちだったことを。それが若気の至りであったにせよ、そもそも自分たち以外の風変わりな世代のことをどうこう言える立場ではなかろう。

 にもかかわらず先日、大阪府警が警官募集のために制作したポスター(おそらくGOサインを出したのは『そういう世代』)のコピーはというと、
「草食系より、大阪府警。」
 だからそれじゃダメなんだってば。「より」じゃなく「でも」にしないとね。
(相模弘希)