NHKオンライン『ニュースウオッチ9』公式サイトより

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 先日3日(日)は憲法記念日だった。全国各地で護憲派・改憲派による集会が開かれ、なかでもノーベル文学賞作家である大江健三郎が「すべて安倍のせい」とスピーチした護憲派の集会と、櫻井よしこが現行憲法を「下手な日本語。文法も間違っている」と非難した改憲派の集会が注目を集めた。

 そう、今年はこれまでの憲法記念日とはわけがちがう。すでに政権が国民への明確な説明もないままに改憲へなだれ込んでいる、そんな状況なのだ。当然、テレビも重点的にこの話題を取り扱うだろう──そういう思いで視聴をつづけたが、そこに広がっていたのは、異様と言うべき"自粛"の空気だった。

 まず、憲法記念日当日の3日(日)に、時間を割いて憲法について触れたのは『サンデーモーニング』(TBS系)だ。番組最後のコーナー「風をよむ」で、改正賛成派と反対派それぞれの街の声を紹介した上で、スタジオトークでは細川政権時代に首相補佐官を務めた田中秀征が「改正を怖がってはいけない」と述べ、一方、国際政治学者の姜尚中は「(人を殺さない)日本国憲法は文明の利器」と発言。毎日新聞特別編集委員の岸井成格は「連休明けの国会を国民は注視しなければいけない」と締めた。

 ......が、この『サンモニ』以外の民放の番組では憲法問題に踏み込まず、護憲・改憲の集会をストレートニュースで伝えるのみ。『報道ステーションSUNDAY』(テレビ朝日系)は、一応、元共同通信記者の後藤謙次が「国民不在で進みすぎている」とコメントしたが、これも特集ではなく数分間のニュース解説の枠にすぎない。社会問題も扱う『サンデー・ジャポン』(TBS系)や『ワイドナショー』(フジテレビ系)、『Mr.サンデー』(同)では、憲法にまったく触れずじまいだった。

 さらに、翌日4日(月)も、『あさチャン!』(TBS系)『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)『ZIP!』(日本テレビ系)は集会の様子などを伝えたものの、午後枠に移ると『ひるおび!』(TBS系)も『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)もノータッチ。夕方のニュース番組も、『news every.』(日本テレビ系)だけが改正の動きを紹介したが、これもメインからは外れた16時台の扱いだった。そして、夜の報道番組では、1日(金)にも若者にスポットを当てて憲法問題を特集した『NEWS23』(TBS系)こそ再び取り上げたが、『報道ステーション』(テレビ朝日系)や『NEWS ZERO』(日本テレビ系)は見事にスルー。特集はおろか、ストレートニュースでさえ触れることはなかった。

 こうして見ると、TBSだけが際だって憲法問題に力を入れているようにも思えるが、それは大きな間違い。これまで一度も変えずにきた憲法が改正されようとしている、その大きな分岐点であり、憲法について考えるための祝日だったのだ。TBSの報道は当然の姿というより、食い足りないくらい。むしろ、他局の「ストレートで1回触れておけば十分」と言わんばかりの姿勢が異常すぎるのだ。

 そんななかでも、とくに露骨なのはフジテレビだ。なんと、フジテレビは日曜から月曜にかけて、憲法問題について触れた番組は一切なし。他局が足並みを揃えて集会の様子を伝えた日曜夕方と月曜朝のニュース枠でも、フジの『FNN みんなのニュース Weekend』と『めざましテレビ』だけは取り上げることがなく、憲法のケの字すら出てこない始末。改憲の大合唱を行いそうなタカ派番組『新報道2001』でさえ、憲法記念日当日の特集は「ニュージーランドSP」というユルさ全開の放送だった。

 しかし、民放以上に奇っ怪だったのは、公共放送局・みなさまのNHKだ。

 まず、1日(金)の『ニュースウオッチ9』では、NHKが行った憲法改正にかんする世論調査の結果である「改正する必要があると回答した人が28%、必要ないと回答した人が25%、どちらともいえないと回答した人が43%」という数字を発表し、各党の主張を紹介。いかにも中立を守りましたと言いたげな独自色のカケラもない内容でお茶を濁したが、これは3日(日)の『日曜討論』も同様で、自民党の高村正彦や民主党の長妻昭といった各党の代表10名がダラダラと安保法制について言いたいことを言うだけ。

 ただ、政党の意見をバランスよく取り上げたとしても、改憲派が圧倒的であるため、改憲の正当性ばかりが強調されているように聞こえる。とくに前述の『ニュースウオッチ9』では、各党の意見としてVTRで取り上げた政治家は、共産党・志位和夫委員長以外は全員改憲派。民主党の代表として取り上げられたのも積極的な改憲派である松原仁議員で、冒頭で紹介した櫻井よしこが登壇した改憲派による「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の集会にも民主党で唯一参加したような議員である。

 このNHKによる政権ヘの気の遣い方は、報道だけでなくドキュメンタリーでも見て取れる。改正の動きが出ている最中の憲法記念日なのだから、『NHKスペシャル』や『ETV特集』といったドキュメンタリー枠でも憲法をテーマに選ぶのがこれまでの流れだと思うのだが、それさえなかったのだ。

 思えば、憲法の施行から60年の節目だった2007年、憲法記念日直近の4月29日にNHKは『日本国憲法 誕生』と題したドキュメンタリーを放送した。この番組では、それまで極秘とされてきた憲法成立の裏側を、当時の資料や、GHQや極東委員会関係者による証言、政府案の起草を作成した内閣法制局・佐藤達夫の録音テープなどから検証。結果として、衆議院内に設置された「帝国憲法改正案委員小委員会」によって条文の修正が行われていたこと、9条にしても積極的に戦争の放棄を明文化したのは日本の議員によるものだったことを明らかにした。いわば、「GHQの押し付け憲法」という論を吹き飛ばす内容だったのだ。

 このドキュメンタリーが放送された際も、第一次安倍内閣による改憲の動きがすでに見られていた。それゆえ、NHKの製作陣は憲法を見直すこと、成り立ちを振り返ることを重要視した。だが、それからわずか8年。当時の心意気はいまのNHKにはない。

 ただ、問題は多くのテレビ番組から護憲の声がかき消されていることではない。それ以上に、憲法について取り上げること自体が「タブー」化していることだ。

 たしかに、憲法記念日におけるテレビ各局の報道を見ていると「改憲の足を引っ張る内容や、護憲派の主張を取り上げれば、政権から槍玉に挙げられるから怖くてやれない」と感じて萎縮しているようにも思える。それなら話はわかりやすい。だが、いまテレビの報道を覆っている状況は、それでさえない。ストレートニュースですら憲法記念日の動きを紹介しなかったフジテレビの姿勢が顕著であるように、護憲か改憲かではなく、「憲法問題に触れる」ことがすでに禁忌になりつつあるのだ。

 この「触らぬ神に祟りなし」という境地にまでテレビ報道を追い込んだのは、もちろん、選挙報道に因縁をつけ、政権批判をコメンテーターが口にしただけで"出頭要請"をかけ、放送法をちらつかせて脅しをかけるという、安倍政権が睨みをきかせてきた結果だ。しかし、この状況では、改憲に対する安倍政権の強引な政治手法を批判すること以前に、憲法についてのまともな議論さえ報道されなくなってしまう。

 安倍首相のゴルフ休暇を呑気に報じる一方、憲法問題には触れないニュース番組。すっかり安倍政権に去勢されてしまったテレビは、一体どこに向かうつもりなのだろう。
(水井多賀子)