白米の弁当にはマル適マークがつかない!?shutterstock.com

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 今年4月からコンビニやスーパーで売られる惣菜・弁当などを対象に、国の基準を満たしているかどうかを企業が判断し、マークを商品に表示して販売する「健康な食事」制度が始まるはずだった。ところがこの制度が突然の延期。コンビニ弁当や惣菜の"マル適マーク"に何が起きたのか?

 導入が予定されていた制度では、「健康な食事」の基準が、1食当たりのエネルギーを650kcal未満、食塩が3グラム未満となっている。主食であるご飯やパンなどの炭水化物は300kcal未満、40〜70gとし、玄米などの精製度の低い穀類が2割以上含まれること。魚や肉などによる主菜は、たんぱく質が12〜17g、副菜は150kcal未満で野菜やキノコなど重量100〜200gとなっている。

 この基準が正しいかどうかは別として、いくつかの基準が農林族の議員や食品事業者に危機感を持たせることになったのは事実のようだ。

 3月11日に開催された自民党の農林水産戦略調査会・農林部会合同会議で、厚生労働省の「健康な食事」制度に対する見直しを迫る意見が相次いだ。

「1食分650kcal未満というエネルギー量は少な過ぎる」「基準を満たしているかどうかを誰がチェックするのか」「基準が性別・年齢別で示されていない」「塩分の多い食材が排除されることで、梅干や漬物など消費者に誤ったメッセージとなりかねない」

「どんなことがあっても白米の消費を減らしてはいけない!」

 しかし、もっとも反発が強かったのが、主食に関する基準。1食当たり300kcal未満で食物繊維をしっかりとるためには「玄米や麦など精製度が低い穀類を2割程度含む」とした点だ。

 農林水産関係の議員は、「玄米が2割も占めると白米の生産に影響がでる」「白米がだめというのはおかしい」など、白米の消費を守るために必死に反対している。制度では白米のみの弁当にはマークが付けられない。

 多くの弁当メーカからの反発も多かった。
「食物繊維を穀類だけで摂取しようとするのは無理がある。白米の弁当にマークが付けられないのは、白米に不健康なイメージを与え、問題だ」

 精製度の高い白米は、低炭水化物食事を主張する陣営からは生活習慣病を引き起こすとされるいわば悪者食品。世界的に広がりつつある糖質制限食の中では、最も注意が必要な食品とされる。

 それだけに、白米の生産と消費を維持しなければならない陣営にとって、今回のマークは非常に厄介なしろものだ。この逆風にさらに追い討ちを掛け兼ねない。
 
 しかし、問題はこうした対立構造ではない。国や厚生労働省が国民の健康長寿を真剣に考えているかどうかも怪しいという点だ。そもそもこの制度自体がざるだといわれる。基準を実際に満たしているかどうかは、弁当や惣菜を作る企業による申告制で、商品に対して国の検査が一切ない。基準値の科学的根拠も希薄で栄養素量は満たされているからといっても、保存料や着色料などの添加物について、まったく触れていない。

 コンビニが新制度導入に向けて開発していた栄養バランスのとれた各種の弁当の成分を分析したあるNPOの調査では、ほとんどの弁当が国の基準をまったく満たしていない貧弱な栄養バランスだった。特に亜鉛、カリウム、カルシウムなどのミネラル成分が壊滅的で、一部ミネラル量が基準値に近いものでは、添加物の成分が影響しているとされている。

始まってしまったもうひとつのざる制度

 こうした構造は4月1日にスタートしてしまった「機能性表示食品制度」でもまったく同じだ。健康食品の安全性評価については、これもメーカーの届出だけで済んでしまう。届出者がこれまでの販売実績をもって食経験ありとすれば、安全性評価はそこで終了する。消費者庁に書類を揃えて出せば、その内容は実質的には審査されない。企業のモラル頼みだ。そんなモラルは信じていいのか? 何より国のアリバイ作りと企業への利益誘導としか考えられないのではないか。

 そもそも「健康な食事」制度の基準は何のために策定されているのか?

 これまで11回にわたって議論されてきた「日本人の長寿を支える『健康な食事』のあり方に関する検討会」の第1回では、委員の1人である東京大学大学院教授の佐々木敏氏が検討会の基本的な必要性の根拠とも取れる資料「日本人の長寿を支える『健康な食事』」を説明した。

 この中では、健康的な食事の例として地中海食をとりあげ、糖尿病や心筋梗塞の発症率が率いことを説明しながら、米国政府の食事ガイドラインの報告書(2010年)の記述を引用している。

 これによると、「(アメリカで成果を上げている高血圧の人向けの)DASH(dietary approach to stop hypertension)食や地中海食を支持する事実に比べると、日本食に関するエビデンスは、健康的利点を示す易学的研究や臨床介入研究の報告のみならず、その食構成に関する詳細な報告も乏しい」と指摘されているというのだ。

 だから日本食に「健康な食事」制度の基準が必要なのだろうか? もしかしたらたったこの一文だけで、厚労省は健康な食事の基準作りに取り組み始めたのではないのか? 普通であれば「放っておいてくれ! アメリカの糖尿病ランキングは日本よりずっと上だろう!」と言いたいぐらいだが、厚労省やこの動きに動員された専門家達は本当に国民の健康と長寿を考えているのか? そんな疑問を十分に抱かせる制度の突然の中止の顛末だ。
(文=編集部)