盛りあげよう!東京パラリンピック2020(21)

「今年の大会は何が起こるかわからない。面白くなりそうだ」

 男子車椅子バスケットボールにおける国内最高峰の大会、「内閣総理大臣杯争奪日本車椅子バスケットボール選手権大会」の前哨戦を見て、そう確信した。そして、高まる鼓動を抑えきれなかった−―。

 今年も、現在大会6連覇中、日本代表4名を擁する宮城MAXが優勝候補の筆頭であることに変わりはない。だが、その牙城を崩し、王座奪還を果たすチームが出現する可能性は十分にある。その最大の有力候補が、昨年準優勝の千葉ホークスだ。

 52−49。昨年の日本選手権決勝、MAXとホークスとの差はわずか3点だった。しかも第4Q、残り5分までリードしていたのはホークスの方だったのだ。それをMAXが力づくで巻き返し、史上初の6連覇を達成したのである。ホークスはこの時の悔しさを忘れることなく、この1年、チームをつくりあげてきた。

 日本代表でもある土子大輔(つちこ だいすけ)、千脇貢(ちわき みつぐ)の2人を中心に、もともと攻撃力に定評のあるホークスだが、今シーズンはディフェンスに重きを置いてチームづくりを行なってきた。最大の特徴は、「攻撃的なディフェンス」。前からプレスをかけ、相手に攻撃の余裕を与えない。そのディフェンスが機能するかどうかが、王座奪還へのカギを握ると見られている。

 キーマンは、やはり日本代表のエース土子だろう。彼のこの1年の成長について、猪田博敏アシスタントコーチはこう語る。

「キャプテンになったこともあって、自分の考えを主張してチームを引っ張るようになりましたね」

 土子自身も自らの役割の重要性をしっかりと自覚している。

「チームでは自分が一番点を取らなければいけない。それは相手もわかっていることですから、そういう中で、どれだけバリエーションを増やしていくかが重要です。そのためには他のメンバーと連携をうまくとることが必要なんです」

 2007年以来、7大会ぶり(11年は東日本大震災のため中止)の頂点を狙うホークスにとって、日本選手権を前に絶対に負けられない試合があった。4月18、19日に行われた関東カップである。この大会は日本選手権の前哨戦と位置づけられており、毎年全国のトップチームがズラリと顔をそろえる。今年の決勝はMax vsホークスとなった。試合は逆転に次ぐ逆転と、一進一退の攻防戦が続き、第3Qを終えた時点で、「MAX36−34ホークス」と、両チームの差はわずか1ゴール。どちらも一歩も譲らない白熱した展開に、会場内は緊張感と高揚感に包まれた。

 激闘の末に、勝利を収めたのはホークスだった。最後の第4Q、高さを生かした布陣でMAXを引き離し、50−41で大会初優勝を遂げたのだ。聞けば、ホークスがMAXから勝利を挙げたのは9年前、06年の日本選手権以来のことだという。チームにとって、悲願と言ってもいいだろう。ところが、試合後のホークスには、勝利の喜びに湧く様子は一切見られなかった。その理由のひとつは、「本番は日本選手権」ということもあっただろう。だが、それだけではない。実はMAXのエース、藤本怜央が不在だったのだ。

 藤本怜央。今や国内のみならず、世界の車椅子バスケットボール界において、この名を知らない者はいないと言っても過言ではない。車椅子バスケットボールには、各選手に障害の度合いによって1〜4.5の8段階の持ち点があり、コート内の5人の合計が14点以内というルールがある。藤本は、最も状態の良い4.5の選手で、体幹も足の踏ん張りも利く。しかも体格にも恵まれている。高さとパワーを武器とする国内随一のセンタープレーヤーである彼は、MAXのエースであり、日本代表の大黒柱である。

 その藤本は今シーズン、初めてMAXを離れ、ドイツのリーグに参戦した。加入したハンブルガーSVでも主力として活躍し、チームがユーロリーグのファイナルに進出したため、帰国が関東カップに間に合わなかったのだ。

"藤本のいないMAXに勝てずして、日本選手権での優勝はない"

 ホークスにとって、関東カップは負けることが許されなかったのだ。杉山浩ヘッドコーチはこう語る。

「もちろん、(関東カップでの)優勝は自信につながります。でも、やっぱり藤本のいるMAXを破ってこそですよ」

 日本選手権では順当にいけば、準決勝でMAXと対戦する。その試合こそが、ホークスにとっての大一番となる。

 一方、7連覇を狙うMAXは、初めて藤本のいないシーズンを送り、苦戦することも少なくなかったようだ。

 MAXの岩佐義明ヘッドコーチは、「高さがない分、どうやって戦おうかと、いつもいっぱいいっぱいでしたよ」と今シーズンを振り返った。

 だが、王者はしっかりとチームを作りあげてきている。スピードとキレが増した豊島英、随一の統率力をもつ藤井慎吾など、個々の能力の高さはもちろんだが、それだけではない。MAXには、結束力がある。藤本不在でも、その結束力は緩むどころか、より強固になっている。それが垣間見られたのが、関東カップの準決勝、ワールドBBC戦だった。

 前半には最大10点のビハインドを負ったMAXだったが、後半で徐々に追い上げ、最後は延長戦にもちこんで制したこの試合、ハイライトは第4Qの最後にあった。

 43−45と2点ビハインドの第4Q、残り10秒を切ったところで、MAXはタイムをとり、最後の戦略を練っている。残り時間を考えれば、シュートチャンスは1回。そのラストチャンスをキャプテンの中澤正人に託したのだ。実はこの試合で中澤は、力を発揮できずにいた。本来ならば、藤本不在の中、センタープレーヤーの中澤が最大のポイントゲッターとならなければならない。ところが、この試合ではリングに嫌われ続けていたのだ。

 その中澤に、最後の1本を託したのは、選手全員の総意だったという。中澤にとってプレッシャーは大きかったに違いない。だが、彼は見事に同点シュートを決め、さらに延長戦でも3ゴールをあげて、チームメイトからの期待に応えたのである。これでキャプテンへの信頼が増し、チームの結束力がさらに高まったことは想像に難くない。日本選手権ではそこに藤本が加わる。果たして、王者はどんな戦いを見せてくれるのか、期待は膨らむばかりだ。

 今年の日本選手権は、5月4、5、6日の3日間にわたって、東京体育館で行なわれる。各地区の予選を勝ち抜いた16チームが一堂に会し、日本一の座を目指して火花を散らす。MAX、ホークスのほかにも注目したいチームはいくつもある。3月の長谷川杯では決勝でMAXを破った埼玉ライオンズ、関東カップの準決勝でMAXを苦しめたワールドBBC、そして藤本とともにドイツから帰国して参戦する日本代表のもうひとりのエース香西宏昭が加入するNO EXCUSE......。

 果たして、MAXが史上初の7連覇を達成するのか。それとも、古豪復活、新王者誕生となるのか。いずれにせよ、日本車椅子バスケ界の歴史に新たな1ページが刻まれる。その瞬間を見逃す手はない。

斎藤寿子●取材・文 text by Saito Hisako