テレビでもおなじみ、情景師アラーキーこと荒木智さん

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趣味の世界を極めるあまり、とんでもない境地に達する人をたまに見かけることがある。

『凄い!ジオラマ』を上梓した情景師アラーキーこと、荒木智さんもそんな人物だ。

普段は家電メーカーのプロダクトデザイナーとして働きながら、アフター5と休日のわずかな時間を全てジオラマに捧げ、超リアルなミニチュア情景の世界を創作。「タモリ倶楽部」「マツコ&有吉の怒り新党」「めざましTV」などのテレビでも何度も取り上げられている。

そんな荒木さんのジオラマ作品をまとめた本『凄い!ジオラマ』の発売を記念して、ゴールデンウィーク期間中、東京・巣鴨にあるジオラマ・ミニチュア・情景模型の専門店「さかつうギャラリー」、そして新宿マルイで「”凄い!ジオラマ”展」が開催されている。本書で収められているジオラマを生で鑑賞できるとあって、巣鴨の「さかつうギャラリー」で展示の様子を取材。会場にいた情景師アラーキー・荒木さんに話を聞いた。

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「母親から幼稚園のときに『箱庭遊び』を教えてもらったのがジオラマにハマったキッカケです。贈答品のお菓子が入ったブリキ缶のフタに、庭から持ってきた小石や苔、小枝を指してそこにお気に入りのミニカーを置いたら、そのリアルな情景にビックリしたのをよく憶えています」

幼少時代からジオラマ観を養っていた荒木さんが本格的にジオラマづくりを始めたのは中学時代。知り合いのお兄さんが持っていた専門誌「ホビージャパン」に出会い、その本を眺めながらジオラマ作りを手探りで始めたという。

「悔しいのは、雑誌に『この材料は東急ハンズで買えます』とか書いてあるんですよ。でも、当時は九州に住んでいたので近くにハンズはない! ないものは自分で作るしかないから、工夫するわけです」

突き抜ける人の共通点、それは「ないものは創意工夫で生み出していく」というバイタリティであり、イマジネーションだ。

「たとえば、壁の補修剤に『ドフィックス』っていうブランドがあるんです。雑誌には<『ドフィックス』を使いました>と書いてあるんですけど、近所の画材屋の親父さんに聞いても『ドフィックス』が何かわからない。だから、自分で『ドフィックス』という単語に憧れて、たぶんこんなものだろう、とトライ&エラーを繰り返しながら、技術を磨いていきました。今、ジオラマを作る上でのベースの知識・技術は、ほとんど中学時代に確立したものですね」

といっても、高校になると「ジオラマとかプラモデルなんか作ってもモテない!」という残念な事実に気づき、一時期ジオラマ作りから離れてしまった荒木さん。ジオラマ熱が再燃するのは、社会人になってから「TVチャンピオン」でジオラマをテーマにした回を見たときだった。

「その時、久しぶりに作ったジオラマ作品が、この『Go fishing!』(1996年、scale1/35)です。これがたまたま、タミヤが主催した模型コンテストで入賞したことで満たされてしまったのか、またしばらくジオラマから離れます。次にジオラマ熱が再燃したのは30代になってから。以降はずっと、ジオラマ熱が続いていますね」

普段は社会人として仕事に励みながら、アフター5と土日の時間を費やして、これらのジオラマの数々を制作。たとえば『てんとう虫』という作品は4日間、約20時間程度で作り上げてしまうというから、そのスピード感にも驚かされる。

大人の趣味を続ける上で一番のハードルともいえるのは家族の理解だ。帰宅後も、そして土日もジオラマ作りに没頭なんかしていたら、普通の家庭であれば離婚問題に発展しても不思議ではない。荒木さんはその難問をどう解決したのか?

「実は、妻も一緒にジオラマを作っています。これは最高に助かってますね。僕はO型の思いつきタイプなんですが、彼女はA型のコツコツタイプなので、単調作業でコツコツやるようなものは、『そこまでやる必要ないよ!』と止めるまで作り続けてくれます(笑)」

そんな奥さまの代表作(?)が、ゴッサムシティなど廃墟をテーマにしたジオラマにおける空き缶など(もちろん1/35スケール)の数々だ。

「こんなの、普通なら作りたくないと思うんです。でも、彼女のスイッチが入ってしまったのか必要数以上を作り続けてくれました。よく、女性は模型とか興味がない、と決めつける人がいますけど、実際は小さくて緻密なものって女性の方が好きな場合が多いんです。リカちゃん人形とか、ドールハウス、シルバニアファミリーなんかジオラマ要素が満載ですからね」

ジオラマというと、建物などの構造物をいかに精巧に作り上げるかが肝、という印象がある。だが、荒木さんの作品は1/35スケールなのに躍動感溢れる猫だったり、苔やツタなどの植物の緻密さがため息を誘う。

「僕、ツタフェチなんです。そして、ツタが入るとリアリティが一気に増すんです。ツタって真横に伸びる性質があるんですが、そういうのも、皆さん注意して見てはいないですよね。でも、普段何気なくツタを見ている中で、脳の奥深くのハードディスクでは『ツタってこういう風に生えている』というのを知らない間にインプットしていると思うんです。だから、ツタや苔といった要素を入れることで、脳が勝手に『なんかリアルだ』と認識してくれるんだと思います」

こうした、無意識のうちに脳が認識している「日常あるある」をジオラマ要素として入れれば入れるほど、共感部分が増えてリアル感が増す、と荒木さん。光や風の方角の概念もその一つだ。

「『西瓜の夏』(scale1/32)という作品が特に顕著なんですが、方角を与えてあげるとリアリティが増すんです。正面側は南側なのでツタも元気に生える。でも、反対側はジメジメしているので、ツタではなく苔のようなものが生えてくる。その他にも、道路と橋の境界線での砂の散らばり方なんかも、多くの方が『こういうの、あるよねー』と共感のスイッチをバシバシ押してくれる部分だと思います」

この「”凄い!ジオラマ”展」、嬉しいのは入場無料なのもさることながら、撮影もSNSへの投稿も自由、ということ。前から後ろから、真俯瞰から低アングルからと、好きな角度を見つけては思う存分撮影ができる。写真で見ると、また違った世界観に見えてくるのが面白い。

そして、荒木さんの作品に触発されてジオラマを作りたくなったら、「さかつうギャラリー」店内にジオラマ制作キッドが揃っているので、すぐにでもジオラマ作りに挑戦できてしまう。せっかく時間のあるゴールデンウィーク、新たな趣味を始めてみるには絶好の機会だ。

「”凄い!ジオラマ”展」は巣鴨・さかつうギャラリーでは5月3日まで開催(10:30〜19:00、入場無料)。
その後、5/4〜5/6は、新宿マルイ アネックス7F「模型ファクトリー」で同様の展示会を予定だ。
荒木さんも体力の許す限り会場に顔を出す予定とのこと。遠出ができないのであれば、ジオラマで妄想世界にトリップしてみてはいかがだろうか。

巣鴨も新宿も遠くて無理! という方は、新刊『凄い!ジオラマ』でお楽しみください。

(オグマナオト)