『殺人豚』 原題『PIGS』1972年/米/95分監督:マーク・ローレンス出演:トニー・ローレンス、マーク・ローレンス、キャサリン・ロスほか

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『殺人豚』ビデオのジャケット裏面

 今回は久しぶりに動物ものだ。『殺人豚』......シンプルながら、何て、何て、素晴らしいタイトルなんだ(感涙)。日本のビデオ黄金期を支えた邦題命名者のスカムなセンスを讃えたい。
 まずこのビデオがお得なのは、ジャケットの裏面に「動物パニック映画の総括」と称し、「大量発生して人を襲う」「巨大化・強力化して人を襲う」「変型して人を襲う」と3つに分類し、各々のタイトルをスペースの許す限り列挙しているのだ(写真参照)。そして一番下には<さて「殺人豚」は?>と。しかし今回は最初にネタばらしするが、この作品はそもそも動物パニック映画ではない(汗)。私も昔そう思い込んで購入したが、ジャケット表紙に「前代未聞の殺人計画 豚は人肉がお好き!?」と、ちゃんとヒントが書いてある。なら、ジャケ裏の労作に何の意味が......(苦笑)。


 リンは、少女の頃からレイプされ続けた実父を惨殺し、精神病院で治療を受けている。ある日リンは、若いナースと壮年の院長がセックスしている隙に、ナースのバッグから車のキーを盗んで病院から脱走。見知らぬ土地に着いたリンは、「従業員募集」の貼紙を見て、潜伏先としてカフェに住み込みで働くことにする。

 だがカフェのオーナーのザンブリーニという老人は、昔サーカスで高所から落ちて一旦死亡したが、死体安置所で甦るも、頭が変になっていた。その後、養豚場を経営するが、野原に放していた豚が寝ていた酔っ払いを食ってしまったことをキッカケに、死体を盗んできては豚に食べさせていたのだ。ザンブリーニの変人ぶり、カフェのウエイトレスがしょっちゅう行方不明になる事などから、それは町の噂に上っていた。カフェの隣に住むバアサンも、普段から警察に「豚に死体を食わせて、その豚をあいつは食べているのよ! 逮捕して」と陳情していた。ちなみに、このバアサンのキャスト名はキャサリン・ロスだが、『卒業』や『明日に向って撃て!』の、あのキャサリン・ロスではない。顔も年齢も全然違う、同性同名の女優さんだ。

 病んでいるリンは、若者が言い寄ればカミソリでペニスと顔面を切り刻み、脱走した病院から使者がやってくれば背中をナイフでメッタ突き。その都度リンの脳内には「パパ教えて、誰を愛しているの? 小さな女の子が優しくしているのに」という意味深な歌が流れる。「こりゃあ儲けた」と、リンが殺した死体をせっせと豚小屋に運び、ナタで解体して「ブキ〜!」と狂喜する豚どもに与えるザンブリーニ。

 やがて2名の行方不明事件にリンが絡んでいると推理した保安官は、ザンブリーニに電話をかけ「リンはイカレていて危ない。気を付けろ」と警告する。波長が合うのか、リンを娘のように庇ってきたザンブリーニは「ワシと一緒に逃げるんだ」。リンは「どこへ? パパはどこ?」とパニックになる。そして「パパは死んだんだ」というザンブリーニの言葉に、「ウソよ〜!」とリンは彼の背中をナイフで一突き! 哀れザンブリーニはリンによって細切れにされ、豚の餌食となるのであった。数時間後、調書を作成する保安官。豚小屋に残されていたリンの服やアクセサリーから、ザンブリーニとリンも一連の行方不明事件と同様、「豚に食われた」と結論付けられる。そしてリン親子の近親相姦殺人事件の一部始終を知った保安官は、「クレイジー・ファミリーだ」と吐き捨て、今日もパトロールへと向かうのであった。

 とある地方の街道で、ヒッチハイクをする壮年男性。車が停まると中にはリン! 「これはご親切に。女性は怖がって乗せてくれません」。「私は怖くないわ。あなたはパパに似てるもの」で完。人を殺す豚は出てこない、サイコホラーだ。ちなみに監督のマーク・ローレンス自らザンブリーニを演じ、リンは実の娘トニー・ローレンス、脚本は監督夫人と、こんな映画を家族で作る一家も「クレイジー・ファミリー」だ。


 実は北米では、同じような話が実話として複数件ある。1900年前後のアメリカでは、「いいエサを与えていい豚を作る」という目的で、働き口を世話すると偽って連れて来たホームレスなど12人以上を豚に食わせ、見事その豚は品評会で何度も金賞を受賞した(人肉入りソーセージを作る狂った兄妹の『地獄のモーテル』の元ネタ)。カナダでは1990年代に、「女は汚い腐った豚だ」という思想の持主が、49人の売春婦やヤク中の女ばかりを変態プレイで散々凌辱した挙句に殺して豚に食わせていた。それらの豚肉は、食卓やレストランへと流通していったのだ......。