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●"3"という数字はいつも根拠があると思っている。押井守監督といえば、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『機動警察パトレイバー the Movie』そして『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(以下、パト2)といった作品が真っ先に挙がるが、多数の実写映画も監督している。だがそれらは熱心な押井ファン以外にはあまり語られることがない。

見る人を選ぶというか、趣味と思想に走り過ぎというか、とにかくその1本だけを見て監督の言わんとすることを読みとるのは難しい映画だ。押井監督の実写映画に対してファンが持つ期待感総量の約半分はこうした「わからなさ」の価値ではないだろうか。あの『パトレイバー』が実写化されると聞いた時も、そう思ったファンは少なくないだろう。

しかしフタを開けてみれば、趣味と思想が随所に色濃く出ながらも、エンターテインメントとしてしっかり面白く、オールドファンへのサービスもあり、その上で"実写のパトレイバー世界"の魅力が見えてくるシリーズ作品となっていた。コメディ、アクション、特撮、ほろ苦い恋まで、特車ニ課という器にさまざまな味わいの作品が盛られたが、その最終話で我々は『パト2』の中心にいた人物たちの影を見ることになった。

『パト2』と実写シリーズ、二つの線の重なりに押井監督は何を映しだしたのか。シリーズを締めくくる長編劇場版『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』公開を前に、お話を伺った。

○シリーズ13本があってこそ描けるもの

――今回はシリーズ全体の総監督を務められましたが、各話にはどのように関わっていらっしゃったのですか?

演出家が何人かいる場合に上に立つ人間くらいに思われているかもしれないけど、もっと明快です。演出部と文芸部の人事権・決定権、仕上げ・音響に関する全ての権限、それと編集権。この作業に関する全ての権限を持つことを総監督制と言います。

脚本の決定に関しては、誰に発注していつ上げるかも含めて全て総監督である僕が責任を持つ。3人の監督(※)も僕が選んだ。音楽に関しては川井(憲次)君と僕で全て決めました。カッティングに関しては最終的に僕が全部チェックして、それぞれの監督が編集した後で順番を入れ替えたり、カットすることもありました。ダビングも全て立ち会ってます。それと、第一話の監督は必ずやる。こういうものだと実際にやってみせ見せなきゃいけないから。(※シリーズ各話を担当した辻本貴則監督、湯浅弘章監督、田口清隆監督)

頭の部分と締めの部分に関する全ての権限を持つのが総監督なんです。逆に言えば、中間の部分には介入しない。だから現場にも行くべきじゃない。今回の現場はその通りやらせてもらった。

――各話の現場はそれぞれの監督にお任せだったんですね。

途中の2話(※)と最終話も僕がやったけど、やらない方があの三人は喜んだと思う。一本でも多くやりたいのに、僕たちの出番が減るじゃないですかと。もっといえば、なぜ三人なのか、二人じゃいけなのかと。僕は二人では出来るわけはないと思ったから三人にした。四人だと多すぎて統一が取れなくなってしまう。(今回のシリーズ作品制作について)あの三人組に関して言えば、まあ、うまくいったかな。(※エピソード5『大怪獣現わる 前編』/エピソード6『大怪獣現わる 後編』)

三人というのは微妙な数なんです。二人ならどちらが勝つか、どちらが前に出るかわかりやすい。三人は微妙に拮抗して、決着をつけなくて済む部分と、つけられない部分が両方出てくる。もっと言えば、一人が倒れても成立する数字。

僕は3という数字はいつも根拠があると思っている。例えば『パト2』は、全部3が基準になっている映画なんだよね。三人だったり三機だったり、三カ所だったり。そういうところは、割といろいろ考えているんです。

――今回の作品がシリーズ13本+長編1本という形になった理由は?

最初から決まっていた。監督からすれば、シリーズを通してキャラクターを固定できて、お客さんがある程度中身を分かった上で(長編を)やるというのは、当然有利だから。最初に長編をやって後からシリーズをやるのは、アニメのパトレイバーがそうだったけど、通常はあり得ない。だから、ごく自然と決まった。

●『首都決戦』がアニメだったとしても同じことをやった――シリーズ13本の積み重ねがあっての長編なんですね。

もちろん。その方がはるかに作りやすいです。インフラができるから。道具や衣装というところ以外に、役者さんのインフラができる。自分の役をつかんだ上で映画に入れば、どんな違う部分を見せるか、という上乗せが効きます。

○『パト2』と現在の"差分"

――『パト2』は、東京で戦争を起こすことを徹底的に思考実験して組み上げたとのことでしたが、今回の『首都決戦』は現在の東京で再度それを行われたのでしょうか?

いや、全然逆ですね。『パト2』の続編であって、リメイクでもリニューアルでもないんです。『パト2』で起きたクーデターの16年後の世界。その16年の間に何が変わったのか、どう変わったのか、何が変わっていないのか。16年経っても変えてはいけないものが果たしてあるのか。いわば"差分"です。

最初から言っていますが、今回はその差分そのものを描くことがテーマ。ストーリーも変える必要がないんですよ。だからほとんど変わっていない。それに付き合っている人間たちが変わったんだという部分を中心に描いています。クーデターを起こすプロセスとか、展開のダイナミズムのようなものはやっていません。『パト2』ではそれを丹念に描いた。だから方向性は全く逆なんです。

それはやはり16年経ってテーマが変わったから。同じようなシチュエーションで、アニメでやったことを映画で作り直したものでしかないわけ。(『首都決戦』が)アニメだったとしても同じことをやったと思う。

繰り返すけど、何が変わっていないのか、何が変わったのか。変わっていいものと変わっていけないものは何なのか。それが全て。骨はそういうことです。後はみんな、映画としての"お肉"ですね。アクションだったり、キャラクターだったり。

――『パト2』の続編として作ったのはなぜですか?

最初からそう決めていたし、プロデューサーの要望でもあったので、利害が一致したんです。多分、(プロデューサーが)『パト2』を好きだったのかな。パトレイバーではいくつもアニメーションを作ったけど、どれが好きか10人に聞いたら6人は『パト2』と言うと思う。作った当時はコテンパンに言われたけどね。ただ、何年か経つとパトレイバーというと『パト2』になっちゃった。

だから『パトレイバー』をちゃんと作ろうとした時に、全く(『パト2』と)無関係に違う事件を起こすか? と。特車ニ課は警備部だから、犯罪捜査はしないし、できない。犯人を逮捕する組織ではなくて、社会的な犯罪、テロと戦う組織なんですよ。その最大限のものがクーデターです。(『首都決戦』では)そういう意図はないけど、少なくとも国を根底から揺るがす、考えうる限り最大限の犯罪です。

――『パト2』ではバックボーンとしてPKO協力法案の成立が描かれたり、毒ガスの飛行船が地下鉄サリン事件を思わせるなど、図らずも当時の時代を先読みしていた部分がありました。今回も昨今の無差別テロを思わせる描写が見られましたが、そうした時代性を取り入れることについてはどうお考えでしたか?

それしか考える事はなかったよね……。今回はより一層テロの要素が前面に出ています。一番のポイントは"見えない"ということなんです。その象徴が見えない戦闘ヘリということ。テロの実態が見えない、もっと言えば動機すら分からない。つまり、"敵が見えない"んです。

何となく察しがつくのは、もしかしたらあいつ遊んでいるんじゃないか、ということ。人の命どころか、自分の命も。そうだとして、無差別にミサイルや機関砲を撃ちまくることで遊び足りうるのかと。多分ね、足り得るんだよ。足り得る部分が"時代"なんだよ。

日本でもしテロがあり得るとすれば、政治的な要求などではなくて、一人が勝手に戦争を始めることだと思うんですよ。すでに、現実に戦争をやっているヤツが出ている。通りがかりの人を刺しちゃったりね。それは言ってみれば彼らにとっての戦争なんだよ。戦争なんだから、動機なんて必要ない。

●パトレイバーは20年連れ添った奥さんみたいなもの(『首都決戦』では)そういう怖さや不気味さがちょっと出ればいいなと思ったけど、基本的には痛快アクション映画というご要望だから、やりすぎない範囲の中で。実は物語としては、ぜんぜん決着ついていない。またやるかもしれないよ、きっと。死んでないんだもん。それ以前に、そもそも灰原って誰よそれ、と。誰でも灰原になりえる。それは、今日性みたいなことを言うのであれば、そこのところにちょっと込めただけ。やりすぎると、たぶん楽しくない映画になる。いやな気分にならない範囲で見せるために、ああいう女の子にしたわけ。

――"見えない戦闘ヘリ"グレイゴーストとイングラムの対決は見せ場の一つでしたね。CG描写のクオリティはご覧になっていかがでしたか?

かなりやれたと思うよ。がんばったと思うし、うまくいったと思う。自分としては都庁上空のコブラの空中戦や、F2(が見せ場)ですね。F2も地味だけど実は大変なことをやってるんです。あとは中盤の突入シーン。アクションとしては長いんですけどね。

ただ、撮影で一番面白かったのは冒頭のシーン。お金も時間もかかったけど、けっこううまくいったと思う。具体的にしていないけど中東のどこかという設定。もちろん国内で撮影したんだけど、大変だった。スタッフが(笑)。ロケセットを組むのに一週間以上かかって、実際に撮影したのは5時間くらい。

たった3、4時間の撮影をするのにけっこうな人数が泊まり込んで準備をして、しかも後片付けにまた3、4日かかっている。それが映画なんだよね。金がかかりすぎると反対もあったけど、今回の映画は外国から始めたかったから、どうしても必要だった。外国から日本に入ってくる、外側の目が欲しかったから。

○シリーズなら多分無限にできる

――シリーズのエピソード5/6をとても楽しんで作っていらしゃった印象でした。

映画よりもシリーズの方が、いろいろなことをできる。いっぱい楽しみたいから「シリーズ」というのは魅力です。だから、どちらをやりたいかと言われたらけっこう悩むと思います。シリーズなら多分無限にできる。無限といったら嘘だけど、『CSI:科学捜査班』のようにシーズン12や13くらいはできると思う。……その前に飽きるかもしれないけど(笑)。

――まだシリーズの続きを楽しみにしてもよいということでしょうか?

それは、やれといわれれば僕はいつでもやります。この映画が大ヒットすることがあればプロデューサーや偉い人たちが考えるでしょう。その時にまた僕が監督として呼ばれるかどうかはまた別の話ですが。でもまあ、多分、いったん僕の中で終わったんです。もしやるとしてもまた頭から考え直すしかない。

ただ、確かに映画を作るという仕事は、他の何にも増して楽しいことには違いない。ああやって時々は休みながら、映画を作って生きていけるのなら、言うことはないと思うよ。だからみんなやっているんだよね。生活苦と戦いながらでも。

――監督にとってパトレイバーとはどういう作品ですか?

一番長くやっている仕事。実写の映画までやるとは思っていなかったけど、なんだかんだで20年以上。数もやったし、お客さんも一番入って、そういう意味では一番お金ももらった。好きとか嫌いとかいう感覚はもうなくなっているね。自分の身体の一部のような感じで、違和感がないんだよ。特に愛情があるかというとそういうワケでもない。20年連れ添った奥さんみたいなもので、もちろん好きだけど愛しているかどうかというと微妙だよね……というと怒られるんだろうけど(笑)。そういう感情を超えてしまっている。だから20年経っても平気で作れるし、また20年後にも平気でできると思う。

『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』は、2015年5月1日より新宿ピカデリー他全国の劇場で公開される。『パト2』からのファンにとっては、20年以上を経て意外な形で続編を目にする日がやってきた。劇場へ見に行く前に『パト2』をじっくり見直しておくとより楽しめるだろう。また、実写のキャラクターや特車ニ課の立場といった『首都決戦』の前提として、可能な限りシリーズ作品を見ておくことがおススメだ。

(C)2015 HEADGEAR/「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会

(笠井美史乃)