第4戦バーレーンGP決勝の56周目、ターン1を曲がりきれなかったニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)をキミ・ライコネン(フェラーリ)が抜き去った瞬間、メディアセンターでは歓声と拍手が沸き起こった。

 この結果、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンが優勝はしたものの、フェラーリが2位表彰台を得た(3位はロズベルグ)。フェラーリは、第2戦マレーシアではセバスチャン・ベッテルがメルセデスAMG勢を寄せつけない完全勝利を挙げており、開幕戦オーストラリアと第3戦中国でも3位表彰台を獲得していた。

 メルセデスAMGから見れば、開幕戦のオーストラリアGP、第3戦の中国GP、第4戦バーレーンと、4戦中3回で優勝しているとはいえ、もはや昨年のような圧倒的優位にはなく、フェラーリからの突き上げを喰らっている。

 世界中のファンが求めているのはメルセデスAMGのワンサイドゲームではなく、ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのチームメイト同士の一騎打ちでもない。そこにベッテルやライコネンといった"役者"が入り乱れて争う白熱のレースだ。そして、2015年シーズンの序盤戦でそれが現実のものとなっている。

 メルセデスAMGのモータースポーツ責任者、トト・ウォルフは語る。

「フェラーリの速さは開幕前テストでもオーストラリアでも見えていなかった。ただし開幕戦で興味深かったのは、セバスチャンがフェリペ・マッサ(ウイリアムズ)に抑えられていたということだ。もし抑えられていなかったら(30秒差ではなく)もっと接近していたはずだ。それが最初の予兆だった。フェラーリはレースごとに進歩している。レースペースだけでなく予選ペースでも速さを増してきている。今季の彼らの開発ペースは非常に印象的だ」

 フェラーリの強さは決勝でのレースペースの速さにある。たしかに、マシンの純粋なピーク性能が問われる予選一発の速さではメルセデスAMGに敵わない。しかし、フェラーリのマシンはタイヤに優しく、タイヤの性能低下を抑えることができる。そのため、ペースを抑えて走る必要がないのだ。

 実を言えば、バーレーンGPでフェラーリ陣営は逆転優勝を期していた。

 マレーシアGP決勝でメルセデスAMGにつけ入る隙を与えないほど速いペースで走り、タイヤ交換を彼らよりも少ない2回にして勝利したように、バーレーンでも決勝でハイペースを維持することが可能と予測していたのだ。

 フェラーリのマウリツィオ・アリバベーネ代表は決勝の後、次のように悔しがった。

「決勝で気温が下がり、路面コンディションも変わったことの影響があった。もし気温が高いままだったら勝てたかと言われれば、答えは『イエス』だ。朝の段階では気温が高かったので、ものすごく自信があったんだ。でも、決勝の前に風が吹いてきて(温度が下がったため)『クソったれ!』って感じだったけどね!(笑)」

 つまり、気温と路面温度が高くなればタイヤへの負荷が大きくなるので、タイヤに優しいフェラーリがメルセデスAMGより優位に立てる可能性が高かったのだ。言い換えるならば、わずかなコンディションの違いによって勝敗が左右されてしまうほど、今のメルセデスAMGとフェラーリの差は微妙なものでしかないということだ。

 そしてアリバベーネは、ベッテルがフロントウイングを痛めて余分なピットストップをしていなかったら、「2台ともにロズベルグを打ち負かして表彰台に上がっていただろう」と言う。

 そんなフェラーリが、今季メルセデスAMGを猛追できているのは、パワーユニットの進歩が大きな役割を果たしていると見られている。

 昨年はメルセデスAMGに比べてパワー不足が明らかだった。そのため、ラジエターやインタークーラーを大型化してパワーの向上を図ってきた。サイドポッドは大柄になり空力性能はやや失われることになったのだが、それよりもパワー向上と制御ソフトウェアの熟成による効率化を推し進めたのだ。

 同時にタイヤへの優しさにも注力した。これはサスペンションなどメカニカル面の性能アップと、リアタイヤに直結するパワーユニットの制御性能の向上が大きい。昨年11月の最終戦直後に行なわれたUAEのアブダビ合同テストで、彼らはパワーユニット制御ソフトウェアのテストに専念していた。

 昨年までのフェラーリは、空力専門家のジェームズ・アリソンがテクニカルディレクターを務めていたこともあって、空力が最優先される組織だった。つまり、開発リソースやテストは空力を最優先に割り振られてほかの開発が滞(とどこお)り、「木を見て森を見ず」という言葉がそのまま当てはまるような状態。組織としての効率を考えた統率が取れていなかったせいで、開発の方向性が迷走することも少なくなかった。

 しかし、昨年12月からアリバベーネが代表に就き、「指揮系統の効率化」を最優先に掲げて組織を見直し、フェラーリは目的意識をはっきりと持った組織へと生まれ変わった。

 バーレーンGPの戦略にもそれが表れていた。彼らはメルセデスAMGとのタイム差が大きくなることを悟った時点で、リスクを冒してでも彼らに挑む戦略を迷わず採った。

「メルセデスAMGとの差が大きいことは分かっていた。だから、我々がやるべきことはアグレッシブな戦略を採り、それを成功させることだけだった。むしろ、シーズン序盤のこの段階でアグレッシブにいかないことの方が好ましくない」(アリバベーネ代表)

 アリバベーネは、パワーユニットに限らず自分たちの目標を達成するために必要なマシン改良は、なんとしてでも成し遂げるという姿勢を貫いてきた。

「開幕までの3カ月間で、全スタッフがパワーユニットに限らず車体面も含めてすべてにおいて大きな努力を重ねてきた。今でも覚えているが、私は昨年12月の10日ぐらいにシモーネ・レスタ(チーフデザイナー)やロリー・バーン(アドバイザー)と一緒に、クルマの画像を見ながら、どうすればクルマの重量配分を少し前寄りに持ってこられるのかと聞いたんだ。キミ(・ライコネン)はそういうクルマのフィーリングを好むし、セバスチャン(・ベッテル)もそうだからね。彼らは『それをやるには6カ月必要だ』と言ったが、私は『それを3カ月でやるにはどうしたらいい?』と聞いたんだ。そうしたら彼らが『昼も夜も働かなくてはならない』というから、『OK、私も君たちと一緒に働くよ!』と言ったのさ(笑)」

 新たな指揮官の下で、開発面においてもレース運営面においても好循環が生まれているのが今季のフェラーリなのだ。

 もちろん、メルセデスAMGも車体面とパワーユニット面の開発に勤(いそ)しんでいる。マレーシアGPでの敗北を受け、次の中国GPでは慌ててアップデートのパーツを投入し、フロントウイングやリアウイングを改良してきた。ヨーロッパラウンドの開幕となるスペインGP(5月10日決勝)に向けて、さらに改良が進められるはずだ。そこでの結果が、その後のシーズンの行方を占うことになる。

 ひたひたと忍び寄るフェラーリの足音を感じ取っているメルセデスAMGの責任者、トト・ウォルフはこう語る。

「スペインには多くのアップデートを持ち込む。着実にマシン開発を続けなければならない。我々には立ち止まっている余裕なんてないんだ」

 もちろん、フェラーリも進歩の足を止めはしない。そしてレッドブルも、ウイリアムズも、それ以外のチームも虎視眈々と飛躍のチャンスを狙っている。間違いないのは、2015年のF1が確実に昨年より激しい混戦模様を呈しているということだ。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki