4月26日の全日本体操個人選手権男子決勝。ロンドン五輪金メダリストの内村航平は、大会8連覇を達成した。

 内村は大会前日、跳馬の大技「リ・シャオペン」に挑戦するほか、「3種目でDスコアを昨年より0・5点あげる構成に挑戦する」と話し、こう続けた。

「世界の個人総合の選手はレベルを上げてきている。現状維持だと自分の中で物足りなさを感じるし、レベルを上げて6種目をやるのが個人総合。難しいことを簡単にやるのがチャンピオンだと思う」

「リ・シャオペン」(技の難易度を示すDスコア6・2点)は種目別でも挑戦する選手が少ない。だからこそ、「個人総合の跳馬でリ・シャオペンを跳んで優勝したら、すごい達成感があると思う。絶対に成功させて、その達成感を楽しみたい」と内村は意気込んでいた。

 その言葉どおり、予選でリ・シャオペンを成功させ、6種目のDスコア合計が39・0点となるハイレベルな演技構成。合計92・150点を獲得して、2位の田中佑典に2・05点の大差をつけた。

 それは5連覇中の世界選手権へ向けた試みでもある。世界が進化することを予測しながら、常にその先頭を走り続けたいという、絶対王者としてのプライドの表れだった。

 たが、予選で好結果が出たことで、決勝ではモチベーションを保つことが難しくなった。「朝起きた時から気持ちが高まらず、このままいつもと同じ演技構成で行くとケガをしそうな感じがした」という内村は、各種目15点平均の得点をとれる演技構成に変更。「ミスなくやっていこうと決めた」のだ。

 決勝の最初の種目のゆかで内村はミスをした。最初の技の着地で大きく動いてしまったほか、3回も着地を乱したのだ(得点は15・250点)。これは内村にすれば珍しい不調だった。続くあん馬とつり輪は予選と同じ構成でそれぞれ15・100点、14・950点。そして、跳馬では予選で挑戦した「リ・シャオペン」を回避してDスコア5・6点の「シューフェルト」に難度を落とし、14・950点に止まった。

「ここまで気持ちが上がってこないのは初めてです。初日に調子が上がってリ・シャオペンを成功させたので、気持ちを少し出し切ってしまったのかなとも思います。そのうえ、1種目1種目消化していくうちに、筋肉の疲労が出てきていた。それで、前もって決めていた演技構成より下げてやらなければいけないなと思いました」

 こう話す内村は、平行棒でも技の難度を落とし、最後の鉄棒でも離れ技を少なくした。6種目合わせたDスコアは、予選より2・2点低い36・8点。それでも総合では2位の田中佑典を0・10点上回る90・550点を獲得した。この結果、予選との合計得点を182・700点にし、田中に2・150点差をつけて、内村は8連覇を達成した。

「去年の世界選手権の団体戦を経験して、技の難度をある程度落としても90点は取れるという自信がついていたので、今日はあの団体戦を思い出しながらやりました。2日間を通じで大きなミスはなかったから、今シーズンへ向けてはいい流れを作れたと思いますが、今日は着地を止められなかった。せめて最後の鉄棒くらいは止めたかったです」

 また内村は、「国内大会は気持ちの入れ方が難しいですが、年をとると今回のような戦い方もやらなければいけないと思う」と話すように、戦い方の幅が広がってきているといえる。

 内村が8連覇している全日本選手権の過去の成績を振り返ると、2位と僅差の戦いだったのは08年と09年ぐらいで、それ以降は他を圧倒しての優勝だった。つまり、近年は国内にライバルがいない状態。王者ゆえの孤独を感じながらも、彼はリオ五輪へ向けて自分との戦いを続けようとしている。

 絶対王者・内村が目指すのは、来年のリオ五輪での金メダルだ。また、個人総合だけでなく、団体でも優勝するためには、日本選手全員のレベルアップが必要になる。そのためにも、内村が待ち望んでいるのは自分のライバルとなる若手のさらなる成長だろう。

「全日本選手権はシーズン最初の大会で、毎年若い選手の成長を見られて刺激をもらえる」と内村が話していたように、今年の決勝の第1班(予選上位)は内村と田中以外は大学生が占め、若い世代が育ってきている。

 内村には、これからも第一人者として日本体操界を引っ張っていかなければいけないという自負がある。

「自分が一番上に立って他の選手にいい刺激を与えることで、底上げができるのだと思う。だから自分の力をずっと維持し続けることで、日本の力も維持できると思ってやっている」 

 その先に見据えるのは、もちろん五輪連覇だ。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi