ニートも高齢化している(写真はイメージです)

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 今年3月、兵庫県・淡路島で5人の男女を殺害した容疑で逮捕された平野達彦容疑者(40)が、高校中退後、ほとんど職に就いたことのなく自宅に引きこもっていたことが判明し、“ウルトラ・ニート”の存在がにわかに注目された。

 そもそも引きこもりとは厚生労働省の定義によると「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」をいう。

 今、社会問題化しているのが、平野容疑者のような40代、50代の引きこもりだ。全国的な人数は統計調査がないが、「今後も増えていくだろう」(厚生労働省課長補佐)という。そんな50歳以上の人のひきこもりの実態に迫ってみよう。

司法試験受験に失敗し40代から引きこもり

 千葉県の郊外に住む足立晃さん<仮名・52歳>は、都内の中堅私大の法学部に入学、司法試験を目指していた。三大難関試験のひとつである司法試験はそう簡単に合格できるものではない。しかし勉強すれば合格できないというわけでもない。足立さんは大学入学と同時に司法試験受験を目指すサークルにも所属し、受験勉強に励んだ。

 大学4年生の時、周りの学生が就職活動をはじめたが、中堅大学ということもあり就職先は大手企業商社に内定する者はごくわずか。多くは地場中堅企業だった。足立さんは、「俺は弁護士になるのだからこいつらより上だ。勉強していて良かった」とひとり優越感に浸っていた。

 大学卒業後、30歳になっても司法試験に合格できなかった足立さんは家族から、「もう普通に就職してはどうか」と言われた。だが、いざ就職口を探してみると、かつて自分の同級生が内定を取った地場中堅企業にすら就職できない。大卒後7年間、就労経験なしという経歴は好況・不況を問わず厳しいものがある。

 結局、35歳まで惰性で司法試験を受験したが短答式と呼ばれる最初の関門にもかすりもしなかった。この頃から近所でアルバイトをしたり、家庭教師をしていたが、どうにも職場で浮いてしまう。40代になるとアルバイトすらせず、ただ家に篭り切りになった。ひきこもりのはじめである。

 幸い、千葉県郊外の自宅には“離れ”がある。その離れでただ1日中、日がな2ちゃんねるやTwitterといったSNSで書き込みをしている。働く気は毛頭ない。元司法試験受験生の知識で、マスコミ記事をボロカスに批判する時が唯一、「司法試験受験に生きてきた自分を感じられる瞬間」(足立さん)だという。

 今のところ生活は親の年金で成り立っている。だが両親ももう70代、先行きの不安は尽きない。「FXでもやって一発逆転を狙おうかなと思っています」と話す足立さんだが、万年床と思われる布団、空き缶とタバコが山となり、漫画雑誌が転がっている部屋からは、とても人生の一発逆転は見込めそうにない。

 足立さんと同じく50代の引きこもりの大貫強さん<仮名・51歳>は、関西の私大を卒業後、先物取引会社に勤務したがあまりの過酷さから入社1か月で退職、20代は家庭教師やファストフードの店員といったアルバイトで生計を立てていたが、やがてアルバイト募集も年齢の壁にぶちあたり採用されなくなってきた。

 上司から言われた指示には従えるが、後輩を指導することは苦手な大貫さんは、やがてバイト先にも足を運ばなくなる。FXや株式取引でデイトレードで小遣いくらい稼げる。だから勤めに出るのはやめた。幸い、実家にいくらかの資産がある。無理して働かなくてもやっていける。もう外の世界には出たくない。誰の目も気にしなくていい。だから部屋の掃除も滅多にしない。

 概ね、50代の引きこもりの現状はこんなところだ。掃除をしない、溜った埃と空き缶、カップラーメンの容器がてんこ盛り。実家にそこそこの資産があり独立した部屋が与えられていることそできることだろう。

50代引きこもりは就職訓練中に脱落

 もし彼らの両親が資産家でなければ、彼らは嫌でも社会に放り出される。その放り出される社会では、今、中高年ブラックバイトの問題が囁かれている。ある人材派遣会社営業職は、「中高年バイトのうちいくつかの業態では引きこもりを10年以上続けてきた人もいる。総じて彼らはストレス耐性に弱い」と話す。社会で揉まれた経験がないからだろう。

 ハローワークでも50代の就職対策に力を入れている。だが引きこもっていた50代は職業訓練を施しても、「就職訓練中に脱落することが多い」(近畿労働局課長補佐)のが現実だ。

 こうした人たちのセーフティネットとして考えられる生活保護制度のあり方も含めて政治、行政、経済界で問題を共有し、引きこもっている彼ら50代が社会で何を出来るのかを今考えなければ、これからますます中高年ひきこもりは増えていくことになる。早急に手を打たなければならない。

(取材・文/秋山謙一郎 Photo by Yuki Yaginuma via Flickr)