こんな訴訟事件が起きている。ある民放テレビのワイドショー番組で「水飲み健康法」を取り上げ、著名な司会者が「水をたくさん飲みましょう」と視聴者に勧めたところ、80代の主婦が実践して習慣化。それが原因で、うっ血性心不全などを発症し入退院を余儀なくされた。主婦は司会者に対し、約6700万円の損害賠償を求め提訴している。
 訴訟の行方はさておき、水をたくさん飲むと、実際にそんな事態に陥るものなのか。
 専門家に聞いてみた。
 「水の飲み過ぎで、心臓の働きが低下し、肺や末梢組織に水分が溜まってむくみや息苦しさが生じます。それがうっ血性心不全です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしていますが、その働きが低下するとこうした現象が起きる。水を大量に飲むと血液量が増えるので、ポンプは一層働かねばならず、負担が増えます。ところが、もともと心臓病や高血圧症があると、水分は十分に送り出せずにうっ血性心不全を発症するのです。
 この症状は程度によって治療に時間がかかり、最悪の場合、死に至ることもある怖い病気です。専門医であれば、疾患のある人に水分の大量摂取を勧める人はほとんどいないでしょう。腎臓疾患を抱えている人も同じで、水分摂取を誤ると危険ですので、要注意です」

 水の過剰摂取による怖い病気は他にもある。“水中毒”と呼称される病気だ。水分摂取のし過ぎで生じる中毒症状で、具体的には低ナトリウム血症や痙攣が起き、重症になるとこちらも死に至るといわれる。
 人間の腎臓は、本来持っている最大の利尿速度が毎分16ミリリットルのため、これを超える速度で水分を摂取すると体内が水分過剰で細胞が膨化し、低ナトリウム血症を引き起こす中毒症に陥るという。
 「当然ながら、水は人間の体を維持するために必要だが、飲み過ぎても害にはならないと思っている人は多い。しかし、精神疾患の患者さんが毎日水を過剰に摂取し過ぎると症状や予後を確実に悪くし、死亡するケースも少なくないのです」(別な専門医)
 水中毒の多くは、最初は過飲水から始まり、次第に飲水量が増え、最終的には慢性的な水中毒として固定し、抜け出すのは容易ではなくなる。

 都内で総合医療クリニックを営む久富茂樹医学博士はこう指摘する。
 「水の多飲の場合、患者さんから申告されることはほとんどありません。主治医やナース、家族が異常な飲水に気付くしかない。中にはコップが手放せず、水がそこにあれば容器に入れて飲んでしまうという患者さんの実態も明らかになっています。そのため水中毒は、周囲の人がしっかり管理し、見逃してはならない病態といえます」

 ただし、水をたくさん飲むなと言っても、汗を大量にかく夏やサウナ、入浴した時などは別だ。脱水症状に陥らないために意識して水分補給をしなくてはならない。