富士には月見桜がよく似合う:ある男の「ダイニングアウト」体験記

写真拡大

日本のどこかで、毎回数日だけ開かれる野外イヴェント「ダイニングアウト」。この知られざるラグジュアリーな催しに、『テクニウム』(ケヴィン・ケリー著)や『チューリング』(B・ジャック・コープランド著)などの翻訳を手がけ、マーシャル・マクルーハンに関する著作をもつジャーナリスト服部桂が赴いた。彼の目に映った「和のもてなし」の粋とは?

SLIDE SHOW FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN 「富士には月見桜がよく似合う:ある男の「ダイニングアウト」体験記」の写真・リンク付きの記事はこちら
02

2/5ダイニングアウトは今回で6回目。日本平ホテルで開催された。

03

3/5腕を振るったのは、神保町「傳」の長谷川在祐シェフ。

04

4/5パノラミックな景色が、窓いっぱいに広がる。

05

5/5富士山と駿河湾を見渡せる絶好のロケーション。

Prev Next PAUSE EXIT FULL SCREEN 01

8種類の桜が室内に生けられた。フラワーアーティストの赤井勝による演出。

02

ダイニングアウトは今回で6回目。日本平ホテルで開催された。

03

腕を振るったのは、神保町「傳」の長谷川在祐シェフ。

04

パノラミックな景色が、窓いっぱいに広がる。

05

富士山と駿河湾を見渡せる絶好のロケーション。

暮れなずむ富士山と駿河湾の姿を窓一杯に抱きながら、8種類の桜に囲まれて、静岡県の地元の極上の酒とともに旬の海と山の幸を味わううちに、いつのまにか雄大な山は闇に隠れ、星空があたりを包み始め、目の前の広大な広場にライトアップされた桜の木立の後ろに月がゆっくりと姿を現した。

日本のどこかで、毎回数日だけ開かれる野外レストランを中心に展開されるプレミアムなイヴェント、「ダイニングアウト(DINING OUT with LEXUS)」が今回は6回目を迎え、3月22日と23日に、日本一豪華な借景を楽しめる日本平ホテル(静岡県静岡市)で開催された。

これまでのダイニングアウトは、佐渡や沖縄八重山のような日本各地の秘境ともいえる場所で、フレンチのシェフが腕を振るってきたが、今回は初めて和が登場。また場所も日本平という、静岡市内から少々登った山の中ではあるものの、以前の会よりはいくぶんアクセスしやすい場所で、ラグジュアリーなダイニングイヴェントに参加する一般客に混じって、メディア関係者も参加できることとなった。

日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の銅像や徳川家康の墓所があるこの地は、まるで富士山という霊峰を心ゆくまで味わうために出現したと思えるほど、視界をさえぎることのないパノラミックな景色に囲まれた絶好のロケーションにあり、ちょっと市内を離れただけなのに、天上の世界に一歩近づいたような趣のある不思議な場所だ。

そしてその地で、富士山と桜に勝るとも劣らない、驚きに満ちた演出で地域の食材をふんだんに組みあわせて観客の舌をうならせたのは、ミシュランの常連でもある神保町「」の長谷川在祐シェフだった。

まずは木の器に盛られた甲羅を添えられた浜名湖のすっぽんスープ(明日はツルツル)でなごみ、駿河湾の深層海水を煮詰めた出汁と安倍奥のワサビであえた真鯛と金目鯛(鯛 v.s. 鯛)の紅白の彩を愛で、北山農園の野菜が盛られたサラダかと思いきや、その皿の底に隠れた岡村牛のステーキを偶然のように掘り出してニンマリし、遊び心いっぱいの海老芋添えのフライドチキンに虚を突かれ、苺と桜のデザートや浜名湖のウナギの骨などで育ったウナギイモのやきいもなどの何種ものデザートで締めるまでを、それぞれ白隠正宗、喜久酔、金明などの地元の銘酒や梅ケ島緑茶などを合わせながら楽しむことは、まるで静岡の大自然をそのまま旅するような貴重な経験だった。

TAG

diningoutFoodLexusLuxury

SLIDE SHOW FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN 01

1/5長谷川シェフによる、浜名湖のすっぽんスープ。

03_0

2/5

02_0

3/5

04

4/5苺と桜のデザート。

05

5/5静岡県の地元の日本酒も振る舞われた。

Prev Next PAUSE EXIT FULL SCREEN 01

長谷川シェフによる、浜名湖のすっぽんスープ。

03_0

02_0

04

苺と桜のデザート。

05

静岡県の地元の日本酒も振る舞われた。

このイヴェントは基本的に屋外で行われるのだが、当日の風が強く気温が下がったため、急遽室内のレストランに場所を移すことになった。

ところがどうして、全面ガラス張りの壁面のような窓からの景色には屋外と何の遜色もなく、おまけに洞爺湖サミットやヴァチカンでも異才を放ったフラワーアーティストの赤井勝が、河津桜をはじめとした8種類の桜を室内に生け、温度管理などを細かくして一気にその場で満開にするという離れ業を演じて観客を圧倒するという趣向となった。また本来はメインだった屋外の桜は、窓の外にライトアップされてモダンアートのオブジェのように並び、あたりは桜の園そのものの風景がどこまでも続いた。

ダイニングアウトの仕掛け人である、博報堂DYメディアパートナーズの大類知樹は、もともとラグジュアリーなツアーを目指したのではなく、日本各地の地域を活性化するために、従来の観光手法を超えた「かっこいい演出」をしたかったのだと打ち明ける。期間限定で毎回、意外な場所に、予約の取れない人気レストランの腕利きシェフや注目のアーティストがやってきて、おまけにダイニングの前にはスポンサーでもあるレクサスに試乗して、周囲の風物も観光できる。高価な「モノ」をひたすら買う「バブリー」な時代は過ぎ、いまは自分の気持ちに合った「コト」を楽しむ時代に成熟してきているのだ。

世界遺産に登録された富士を背景に、徳川家康死後400年を迎える静岡で、桜を愛でながらアイデアにあふれた和食をいただくとは、大人のラグジュアリーと言わずして何と言おう。Googleストリートビューで、南極や世界の秘境までをバーチャルに旅行できるこの時代には、誰もがもうありきたりのパッケージツアーで時間を浪費することに飽きているというのが本音だろう。旅行はテレビやネットで知った遠くの場所を確認するための後付けの作業になり、そこには本来旅のもっていた意外性や発見が薄れている。

「地方再生」などと言って、無駄なハコモノをつくったり、高価なオブジェを買って観光名所にしようとしたりするのは「20世紀のゲーム」だ。この大量な情報消費の時代に求められるのは、こうしたいままで気付かなかった地域の情報に、自ら出向いて接し、自分の身体の五感を通して世界を理解することだろう。そのきっかけとして、このようなユニークなイヴェントの持つ意義は計り知れない。

今回はさらに、新規さを求めたり驚きを喚起したりすることに主眼を置いた演出ではなく、参加者同士に楽しんでもらい、主催者とも交流できる場をつくるという目標もあり、ご両親が静岡出身で軽妙で博識な語りやするどい評論で有名な山田五郎がホスト役を務めた。食事の前のうなぎパイ(夜のお菓子)と清水芸者のお座敷から始まり、ホスト山田のガイドするメニューや地域の薀蓄話と、遊び心いっぱいの長谷川シェフとの掛け合いを楽しんでいるうちにあっという間に夜は更けた。普段は口うるさいオヤジも、計らずしも久しぶりの口福に酔ってしまった。そこには大人の成熟した次の旅のモデルがあった。

DINING OUT

TAG

diningoutFoodLexusLuxury