2014年ソチパラリンピック出場を逃したアイススレッジホッケー日本代表が、3年後の平昌パラリンピックに向けて新たな船出を迎える。

 世界の上位8カ国が出場する世界選手権は、4月26日から5月3日(現地時間)までの日程で、アメリカニューヨーク州のバッファローで開催される。アメリカで開催されるのは2008年のマルボロー大会以来。今大会は上位6チームがAプール残留となり、2018年平昌パラリンピックの出場権獲得を争う次回(2016−17シーズン)の世界選手権に出場できる。7・8位の2カ国は自動的にBプールに降格。そうなると、平昌パラリンピックに出場するために、まず次回Bプールの世界選手権で上位に入ることが最低条件となり、次に最終予選を戦うことになる。今大会でAプールに残らなければ、道のりは何倍も険しいものになる。

 今大会の出場国は、カナダ、アメリカ、ロシア、チェコ、ノルウェー、イタリア、ドイツ、日本。予選をふたつのグループに分けて行い、それぞれ上位2カ国が準決勝進出となる。グループAの日本は、初日の26日にカナダ、27日にチェコ、29日にノルウェーと対戦する。

 世界の勢力図では、昨年の世界選手権王者のカナダとソチパラリンピック優勝のアメリカが事実上のツートップ。そしてソチで初出場ながら決勝進出を果たしたロシアが続く。4位以下の実力は拮抗しているのが現状だ。出場国の中ではランキング最下位の日本が、どこまで食い下がれるかに注目したい。

 日本代表の中北浩仁監督は、目標設定をAプール残留ラインとなる「6位入賞」としたうえで、初戦のカナダ戦を「勝ち負けより個々の成長をジャッジメントする試合」と位置づける。技術とスピード、ボディチェックの強さを兼ね備える強豪カナダを相手に、"守備"を重点的に強化してきた日本のホッケーの成長度合いを確認し、決勝トーナメント進出のカギとなるチェコ戦、ノルウェー戦に反映させたい考えだ。

 これまでの日本の歩みを確認しておくと、日本は2010年バンクーバーパラリンピックで悲願の銀メダルを獲得した。しかしその後、長年の課題だった若手選手の育成と世代交代が遅れて失速し、2012年の世界選手権で敗れると、Bプールに降格。Bプール世界選手権は2位でフィニッシュして、1シーズンでAプール復帰を決めたものの、ソチパラリンピックの出場権をかけた最終予選で3位以内に入らなければいけないところ、6カ国中5位という結果に。長野大会(98年)から守り続けてきたパラリンピックの連続出場は「4」でストップしてしまった。

 当時、ソチパラリンピック出場を逃したことは、あらゆる場面に影を落とした。冬季パラリンピックの中では、花形競技であるにも関わらず、メディアの露出が減り、まだこの競技を知らない人に広めるチャンスを失った。前述したように、課題だった若手選手の確保と育成はますます苦しくなった。

 JPC(日本パラリンピック委員会)からの強化費も銀メダル獲得時と比べて激減し、これまでのような北米やヨーロッパへの海外遠征は物理的に困難に。進化を続ける世界との差は広がるばかりだった。一度落ちたチームが元のステージに這い上がることが容易でないことは想像に難くない。そして実際は、その言葉以上にいばらの道だったと言える。

「もうあんな思いはしたくない」と、キャプテンの須藤悟(44歳)は、静かに振り返る。

 誰もが同じ思いだ。ソチパラリンピック出場を逃したあとは、一線から退く選手もいたが、チームは目標を新たにハードなトレーニングをスタートさせた。アイスリンクが確保できる季節や時間が限られる中、7月のトライアウトから始まった今シーズンは氷上での強化合宿を15回に渡って実施している。

 世界では、よりフィジカルの強さやオフェンスのタフさが求められるようになった。一方で、日本代表メンバーの平均年齢は38歳と高くなり、バンクーバーの頃とは体力もスピードも違う。彼らはそうした変化と現実に向き合いながら、自分たちのホッケーを追求してきた。

 その成果を試す絶好の機会として、今年1月に4カ国対抗戦の国際大会を日本で開催予定だったが、招待した各国の都合がつかずに中止となったのは実に残念だった。

 シーズンを通して海外遠征も実現できないまま今大会を迎える。つまり、実戦としては2013年10月のソチパラリンピック最終予選以来、実に1年半ものブランクがあるのだ。その間、ライバルとなるヨーロッパ勢や北米のチームは頻繁に交流戦を行ない、またIPC(国際パラリンピック委員会)が新たに取り組むワールドシリーズ(各国持ち回りで開催するポイント制のトーナメント)にも積極的に参戦し、切磋琢磨している。格上の国に勝利すればより高いポイントが付与されるこのシリーズ。日本は一度も参戦していない。他国にとっては、移動時間も費用もかかり、勝ってもさほどポイント有利にならない日本と対戦するより、近くの強豪と技術を磨き合うほうがメリットがあるというわけだ。

 そうなると懸念されるのが、ゲームの入り方を左右する"試合勘"不足だ。19日に現地入りして練習している日本代表は、それを解消するため、本番までにイタリア、ロシアとテストマッチを行なう予定だ。イタリア戦はヨーロッパ勢を、またロシア戦はカナダを想定したもので、試合勘を取り戻しながら、動きを入念にチェックする。

『もう失うものはない。やるしかない』

 試合に、そして勝利に飢えてきた日本チームが、静かな闘志を燃やす。

 今大会の注目選手として、中北監督は熊谷昌治(40歳)と堀江航(35歳)の名を挙げる。ともにバンクーバー後に競技を始めたプレーヤーだ。ソチに出場できなかった悔しさをバネに成長中で、「Aプールでどれくらい戦えるかという期待感がある」と話す。熊谷は2012年世界選手権では控え選手。翌年の最終予選ではチームに欠かせない存在となるもファーストセットでの出場が叶わず、ミックスゾーンではこみ上げる悔しい胸の内を吐露した。それと同時に、平昌を見据え、「これからは自分がチームを引っ張る存在にならなくては」と唇を噛みしめながら語っていたのが印象深い。

 今では代表合宿でも練習予定の1時間前にはリンクに乗り、他の選手にも積極的に声をかけるムードメーカーに。「中間管理職的な役割になりました」と苦笑いする熊谷に、キャプテンの須藤も「キーマンのひとり」と期待をかける。

 その須藤が、今大会の意気込みを語ってくれた。

「日本にとってAプールでスタートできるのは本当に大きなチャンス。6位以内に入って絶対に次も同じステージで闘う。それが何より重要だと思っています。ボロボロでも、どれだけ泥臭くても構わない。とにかく勝って、つなげていきたい」

 ゴールへの執念、日の丸の誇りを、もう一度取り戻せるか。栄光と挫折を経験した日本代表の戦いがいよいよ始まる。

荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu