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新型基幹ロケットは、現在運用されているH-IIAロケットやH-IIBロケットの後継機として、さまざまな人工衛星や探査機などの打ち上げを担う。初打ち上げは2020年に予定されている。

連載の第1回では、新型基幹ロケットがなぜ開発されるのかについて紹介した。第2回では、新型基幹ロケットがH-IIAからどう変わり、どのようなロケットになるのかについて紹介したい。

○新型基幹ロケットはH-IIAからどう変わるのか

新型基幹ロケットとH-IIAロケットを見比べたとき、最も目立つ違いは背の高さだ。H-IIAの全長は53mだが、新型基幹ロケットでは63mと、実に10mも伸びている。一方、直径もH-IIAの4mから、H-IIBの第1段機体に近い5mへと太くなっている。以前は機体直径は4.5mから5mの間で検討しているとされていたが、最終的に5mで固まったようだ。

打ち上げ能力は、固体ロケット・ブースターを装着しない状態で太陽同期軌道に3t、静止トランスファー軌道には2tで、固体ロケット・ブースターを最大の4本まで装着すると、静止トランスファー軌道に6.5tまでの衛星を打ち上げることができるとされる。第1回( ここに第1回へのリンクをお願いいたします )で触れたように、H-IIAは太陽同期軌道に対しては能力が過剰で、逆に静止トランスファー軌道に対しては不足していたが、新型基幹ロケットではこれが改善されている。

また、衛星フェアリングが大きくなっている点も重要な点だ。最近の静止衛星は大型化が進んでおり、他国の新型ロケットも軒並み大型フェアリングを採用しつつある。

つまり新型基幹ロケットは、H-IIAよりも多種多様な衛星の打ち上げに対応できるようになっている。

次に、ロケットの各部分について見ていきたい。

○第1段―新開発のロケット・エンジン

新型基幹ロケットの第1段には、新しく開発される「LE-9」というロケット・エンジンが、ミッションに応じて2基、もしくは3基が装着される。第1段エンジンの装着数を変えられるロケットというのはあまり例がない。この仕組みの利点としては、打ち上げたい衛星の質量に合わせて、最も効率の良い構成を選択することができる。しかし、エンジンを取り付ける部分や配管をその都度変えることになるので、設計は複雑になり、また製造や組み立ても手間がかかるようになる。

LE-9エンジンは、H-IIAやH-IIBに使われているLE-7Aエンジンとはまったく違う技術が使われる。最も異なるのはロケット・エンジンを動かす方式で、LE-7Aでは二段燃焼サイクルという方式が用いられていたが、LE-9はエキスパンダー・ブリード・サイクルという方式が使われる。

液体ロケット・エンジンは、ターボ・ポンプという強力なポンプを使ってタンクから燃焼室に推進剤を送り込み、そこで燃焼させ、発生したガスを噴射して推力を発生させている。多くの液体ロケットは、このターボ・ポンプを駆動させるためのタービンをガスで回しているが、どのような仕組みでこのガスを発生させるのか、またタービンを回した後のガスをどう処理するかで、液体燃料ロケットエンジンは大別される。

二段燃燃焼サイクルは、まずプリ・バーナーと呼ばれる小さな燃焼室でガスを作る。そのガスはターボ・ポンプのタービンを回転させ、さらにその後、主燃焼室に送られて燃焼され、推力の発生に使われる。つまりガスを無駄にすることがないため、効率の良いエンジンになる。しかし、その分設計が複雑になり、またエンジンの各部分に高い圧力がかかる、開発や製造、取り扱いが難しい。

一方、エキスパンダー・ブリード・サイクルはプリ・バーナーを持たない。主燃焼室やノズルの壁面に推進剤を流して冷却し、その際に発生するガスを使ってタービンを回すのだ。また、タービンの回転に使ったガスはそのまま外部へと捨てられる。これにより、効率では二段燃焼サイクルよりは劣るものの、プリ・バーナーがないためエンジンの構造が簡単になり、構造が簡単ということは造りやすく、信頼性も高いエンジンとなる。

エキスパンダー・ブリード・サイクルはすでに、H-IIの第2段エンジン「LE-5A」や、H-IIAやH-IIBの第2段ロケット・エンジン「LE-5B」で使われており、日本にとっては技術も実績もある技術だ。ただ、ロケットの第1段エンジンとして使うためには、エンジンを大型化し、大推力化、つまりパワーをたくさん出せるようにしなければならない。エキスパンダー・ブリード・サイクルの大型・大推力エンジンというのは過去に例がないため、開発が順調に進むかどうかが今後の注目すべき点だ。

LE-9の推力は公表されていないが、LE-9の基となった技術実証エンジン「LE-X」の推力は、海面上で1217kN(124tf)、真空中で1448kN(148tf)に設定されているため、これに近い値になると思われる。

○固体ロケット・ブースター―SRB-Aを改良

第1段の下部の周囲には、固体燃料を使う固体ロケット・ブースターが装着される。ミッションに応じて0から4本を変えられるようになっている。0から4本とはなっているが、ロケットのバランスを考えると、1本や3本はなく、実際は0、2、4本から選択することになる。

このブースターについては「改良型」と記載されており、おそらくまったくの新開発ではなく、H-IIAやH-IIBで使われている「SRB-A」を改良したものが使われることになるのだろう。想像図を見る限りでは、H-IIA、H-IIBの外見上の特徴でもあったブレスやスラスト・ストラット(SRB-Aと第1段機体を結合している数本の棒状の部品)がなくなっており、結合方法が見直されている。

ブレスやスラスト・ストラットを使う結合方法が用いられた理由は、SRB-Aのモーター・ケースに炭素繊維強化プラスチックが使われていることにあった。炭素繊維強化プラスチックは高い強度と軽さを併せ持つ材料だが、応力集中に弱い。ボルトなどで直接第1段機体と結合してしまうと、その部分に力が集中するため、壊れてしまうのだ。そこでモーターの上部にアルミ合金製のキャップをかぶせ、そこに斜めの支持棒(スラスト・ストラット)取り付けて力を受け止め、ロケット全体を引っ張り上げるようにする方式が採られている。

だが、新型基幹ロケットでは「簡素な結合分離機構」を用いることで、ブレスやスラスト・ストラットが不要になったようだ。どのような技術が使われているのか、今後の情報に期待したい。

○第2段―LE-5B-2を改良

今回公開された概要で、以前までの完成予想図と最も大きく変わっているのがこの第2段だ。

従来は第2段に「LE-11」という新開発のロケット・エンジンが使われていることになっていた。LE-11はLE-9と同じエキスパンダー・ブリード・サイクルを採用し、すでに原型エンジン試験の試験も行われていた。

だが、今回公開された概要では「改良型2段エンジン1基または2基(検討中)」と記載されていることから、H-IIAやH-IIBで使われている「LE-5B-2」エンジンの改良型であり、新型のLE-11ではないことが示唆されている。実際に、今年3月4日にはJAXAが「新型基幹ロケット上段エンジンの開発」として、LE-5B-2エンジンの改良開発を行う契約を出していることがわかっている。

また「1基または2基」というのは、第1段のように打ち上げる衛星に合わせて装着数を変えるということではなく、現時点ではエンジン基数の設定を保留にしている、ということだ。ただ、どちらになるにせよ、影響は限定的であるため、設計の手戻り(やり直し)は回避できるという。

これが「LE-5B-2の改良で十分」ということなのか、「LE-11の開発に関して何らかの事情や問題が生じたため」なのか、あるいは「最初はLE-5B-2改良型を使い、開発が完了次第LE-11に切り替える」ということなのかは、今のところ明らかにされていない。

(次回は4月25日掲載です)

(鳥嶋真也)