日本での“便移植”は、健康な人の便100グラムで、提供者は配偶者か2親等以内の家族に限定している。感染症の有無や有害な病原菌がいないかどうかをチェックした後、便を生理食塩水に溶かして撹拌し、フィルターでろ過してから大腸内視鏡を使って腸内に注入する方法を取っている。
 「米国では、厳しい基準を満たしたドナーの便から培養した腸内細菌を、カプセルや錠剤に加工して患者が内服する試みも行われています」(同)

 近年、日本では炎症性腸疾患が右肩上がりに増え続け、遺伝的な要因が大きいと言われてきたが、それだけでは説明がつかない。そこで患者の腸内を詳細に調べてみると、腸内細菌の数や種類が少ないなど、分布のパターンに乱れがあることがわかった。
 結果、清潔志向で細菌の行き過ぎた除去や、植物繊維の摂取が少なく高脂肪な食生活などによって、腸内細菌のバランスが崩れていることが判明。これが炎症性腸疾患の発症に関わっていると考えるようになった。
 「腸内菌は、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌、大腸菌などの悪玉菌、それ以外の“日和見菌”の3グループに分かれている。このうち全体の4分の3以上を占める“日和見菌”は、腸内の善玉菌が優位に立つと善玉菌に協力し、悪玉菌が増えると悪玉の味方につくという邪鬼的なところがある。つまり大事なことは、これら腸内細菌のバランスをいかに保てるかにかかってくる。その最たる治療として、糞便移植が脚光を浴びるようになったのです」(健康ライター)

 では最後に、腸内菌のバランスが悪くなると、どのような自覚症状が表れるのだろうか。改めて見ておこう。

(1)便秘になる
 食生活の変化で腸の働きが弱まり、便秘になる人が増える。便は消化吸収されたもののカスで、半分以上が腸内細菌で占められる。有害物質が腸内に長時間あると、発がん性物質を作り大腸がんのリスクも高まる。

(2)下痢になる
 便秘に比べ腸内の掃除が全て終わった後の爽快感もあるので罪は軽い。しかし、心身のストレス、偏った食事、病原微生物の流入などによって腸内細菌のバランスが崩れると起きる。

(3)免疫力が低下する
 ヒトの体は外からの病源に対して防御する機能が備わっている。腸内菌のバランスが崩れることでこの免疫機能が弱り、腸炎を起こし全身感染症をも引き起こす可能性もある。

(4)副交感神経の機能を抑えてしまう
 ストレス状態になると、それを緩和しようと、防衛反応として脳下垂体からアドレナリンなどのホルモンが分泌される。これらは交感神経の機能を活発化して副交感神経の機能を抑える。腸の働きや消化液の分泌は副交感神経で支配されているため、ストレスで腸内細菌のバランスが崩れると、体調も害される。

 日本での糞便治療法は本格的な実用化までにまだ時間がかかる。多くの病気の予防・治療ができる画期的な方法として期待できるが、やはり生活習慣を正すなど自らの努力が大切だ。