武田鉄矢公式サイトより

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 今月14日、福井地裁が高浜原発3・4号機に運転差し止めの仮処分決定を下した。高浜原発3・4号機は原子力規制委員会が新規制基準に適合していると合格判定を出していたが、樋口英明裁判長は「新規制基準は緩やかすぎて、これに適合しても安全性は確保できない」とした。

 高浜原発の脆弱さは以前から指摘されており、普通に考えればじつに真っ当な審判が下っただけだが、原発推進派や保守系メディアはこれに大慌てで、一斉に樋口裁判長へのバッシングを叫んでいる。

「ゼロリスクを求めた非現実的なものだ」(「読売新聞」社説)「奇矯感の濃厚な判断である」(「産経新聞」主張)「専門家の発言に耳を傾けない姿勢は、まさに司法の暴走だ」(「産経WEST」関西の議論)

 そして、この列に加わったのが、松本人志がご意見番をつとめる『ワイドナショー』(フジテレビ系)と、同番組にゲスト出演した金八先生でおなじみ、武田鉄矢だった。

『ワイドナショー』は19日の放送で、高浜原発の裁判をニュースとして取り上げたのだが、レギュラー解説者の犬塚浩弁護士が「この裁判官は安全基準に対して大変に厳しい判断を下す」「電力会社側からは非常に不満の多かった、反論する機会を十分与えてくれない(裁判官)」「裁判官のある種の方向性が出た事件」と、まるで関西電力の言い分を代弁するかのような、解説を加える。

 すると、MCの東野幸治から質問をふられたゲストの武田鉄也がこうかぶせてきたのだ。

「原発が危険である、一旦事故が起こると取り返しのつかないことになってしまう、それはもう日本国民全員が懲りてる、っていうか十分知ってるわけですよね。だから原発は止めてしまおう、というのがもっとも正しい答えなんですけども、もっとも正しい答えのまま振る舞えない経済的な事情ってやっぱりあるわけじゃないですか。ですから"差し止め万歳"っていうふうに簡単にいきませんよね」

 さらに勢いづいた武田は、こう続ける。

「たとえば、私どもはテレビ局で仕事しておりますけど、テレビ局にやっぱり電力を消費しないために1日6時間、放送をやめるとかっていう覚悟が各局にあるかとか、そういうことまでも込みで考えて原発再稼働を認めずというような決心をすべきであって、国は間違ったことやってるぞ、はんたーい!という、そういう単純な話ではもうなくなったような」

 あ〜あ、またいつものヤツである。文明社会の恩恵を享受していながら原発に反対するのは無責任だとか、原発が再稼働できなかったらエアコンを使うなとか、原発推進派はこれまでも必ずこういう論理を持ち出して、反対意見を封じ込めてきた。しかし、原発か文明的な生活を捨てるかの二者択一しかないわけがなく、これこそ話の単純化、幼稚な脅し、にすぎない。

 しかも、笑ってしまったのが、今回、武田がその脅しに「エアコン」でなく「テレビ」をもってきたことだ。テレビが1日6時間放送をやめる覚悟がないなら原発再稼働反対をいうべきではない、だと? この男はエラソーに「経済的事情」などといいながら、何もわかっていないらしい。テレビが24時間放送をやめればいい、というのは反対派も口にする主張だし、推進派もよく、原発がなければ、コンビニが24時間営業している便利な生活ができなくなる、などと脅しているが、これはどちらも間違い。そもそも、深夜帯は電気が余っていて、テレビが放送をやろうがやるまいが、コンビニが営業しようがすまいが、なんの関係もないのだ。

 もし、そうではなく、昼間、テレビ放映がなくなってもいいという覚悟が必要だと武田が言うなら、逆に言ってやろう。どうぞどうぞ、と。

 電力需要が高まる午後のテレビのラインナップを見てみればいい。各局とも、どうでもいい内容の情報番組やくだらないワイドショーばかり。しかも、結局は『相棒』の再放送が視聴率トップをとっているような状態だ。一方、BS局は全局、通販ショッピング番組を流し続けている。こんなものがなくなって誰が困るというのか。困るのは、テレビ局とあんたら芸能人だけだろう。

 ようするに、武田は自分たち芸能人がテレビ番組に出られなくなるから、テレビ局の収入が減ってギャラが削られるから、軽々に反原発とか言うな、と脅しているだけなのである。なんだよそれ。

 しかも、武田がタチが悪いのは、「原発嫌いなら嫌いって、最初から裁判官にも言ってほしいですよね」などと述べ、あたかも樋口裁判長が好き嫌いで判決を下したかのような印象操作を行ったことだ。

 武田は樋口裁判長がどういう状況に置かれてこの判決を下したのか、知っているのか。樋口裁判長は昨年5月、大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟も担当して、原発の運転を認めない判決を下している。その結果、今年3月の異動で名古屋家裁へ左遷されるという、報復人事を通告されていたのである。

 福井地裁で判事をつとめていた樋口裁判官のキャリア、そして定年まであと3年という年齢を考えれば、次は名古屋高裁の陪席というのが通常のコースだった。ところが、原発再稼働を認める最高裁判所の方針に逆らった結果、家裁という明らかな下級裁判所への降格を言い渡されたのだ。

 関西電力はこの左遷人事を知って、判決を別の裁判官に出させようと、裁判官の交代を求める「忌避」を申し立て、裁判の決着を4月以降へ引き延ばすことをはかっていた。これに対して、樋口裁判長が裁判所法28条「裁判官の職務の代行」を使って左遷後も審理を担当し、今回の判決にこぎつけた。

 今回の判決は樋口裁判官が自分の身を捨てて裁判官としての良心を貫いたものなのだ。それに比べて、テレビという既得権益を守ることしか考えていないくせに、もっともらしい口調でデタラメを語る武田のなんと品性下劣なことか。

 ところが、こんなお粗末な主張に対して松本人志も東野幸治もまったく批判しない。それどころか、東野は「同じ、同じね」、松本は「これは問題視されていましたもんね」などと、同意する始末だ。さらに、この武田発言を伝えるネットニュ―スも同様で、あたかも、武田がコトの本質をわかっている大人の意見の持ち主であるかのようなトーンで報道している。

 しようがない。今さらだが、連中が信じ込んでいるらしい「経済的な事情で原発は必要」という主張がいかに欺瞞に満ちたものかを改めて指摘しておこう。

 というか、彼らの脅しの最大の根拠になっている「原発がなくなったら、電力が足りなくなる」という論理については、もはや解説の必要すらないだろう。今現在、日本では1機の原発も稼働していないが、電力が足りなくなったことはもちろん、ピンチになったなんていう話すらない。今後も省エネ技術やLEDの普及が進めば、電力の需給バランスはもっと安定するはずだ。

 こういうと、電力会社や原発推進派は「コストの問題だ」「再稼働しないと電気料金はどんどん値上がりする」と脅しをかけるが、これもデタラメだ。今月4月の電気料金は多くの電力会社でむしろ下がっている。これは原油安が進んで火力発電に使う燃料の輸入価格が下落したせいだが、大方の市場関係者はむしろ、これまでの原油価格が高すぎただけだと指摘し、アメリカで起きているシェールガス革命などの影響で、原油価格はこれから長期的に安くなると見ている。

 また、石油とならんで火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)のほうは値上がり傾向にあるといわれるが、こちらも価格は原油価格に少し遅れて連動するシステムのため、もう少しすると、値下がりトレンドに入るのは確実だ。

 しかも、このLNGについては、日本の電力会社が安く買う努力を怠ってきたという問題が隠されている。電力料金は原料価格の上昇分を丸ごと上乗せできる総括原価方式であるため、「安定供給」の大義名分のもと、そのほとんどを長期買い付け契約、売り手の言い値で買ってきた。その結果、日本の電力会社のLNG購入価格はイギリスの数倍にものぼっている。

 逆に、原発のコストパフォーマンスがいいというのも真っ赤な嘘だ。原発の建設費はバカ高く、しかもそこに、核燃料サイクルや核のごみの最終処分、廃炉などの費用などがかかり、その金額は10兆円以上にのぼるのだが、電力会社のコスト計算にはそれは入っていない。

 これ以外にも、原発を受け入れた自治体への交付金やら原発の研究機関への研究費、核燃料税、そして国の機関の人件費など、毎年4000億円以上の金がかかっている。

 さらに、福島原発事故を受けて、再稼働には新しい規制基準を満たさなければならないが、その対応にも膨大な金額がかかる。電力会社は1兆円と試算しているが、この試算には「配管の多重化」など含まれていないものも多く、実際はその数倍はかかるのではないかと言われている。さらに、福島原発事故の結果、損害保険の保険料が数百倍にも跳ね上がると言われている。これのどこがコストパフォーマンスがいいのか。

 また、コストのことを反論すると、原発推進派はふだんは絶対に考えてもいないくせに環境の問題や将来の資源枯渇の問題を持ち出す。しかし、だったらなおさら、再生可能エネルギーの普及政策を進めるべきだろう。
 
 ところが、電力会社は昨年、再生可能エネルギーの買い取り見直しを発表。太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)は2009年からスタートしたが、電力会社は買い取る上限を設けると言い出した。この裏側には、電力会社と政府が一丸となって進める原発再稼働の問題が潜んでいるのは明らか。この2月に安倍首相は「再生可能エネルギーの最大限の導入を進める」と国会で述べていたが、本気で取り組むつもりなどさらさらないのだ。

 ようするに、電力会社や政府、専門家などは原発の既得権益を守りたいということが最大の目的であり、そのためにわざと原発に依存する体制をつくり上げようとしているだけなのだ。これは、福島原発事故を引き起こした原子力ムラの利権構造の完全復活である。

 そして、これはマスコミも同様だ。彼らは電力会社の広告漬けになり、電力会社に仕事を世話してもらうという利権を守るために、再び原発の必要性を唱え、反原発の意見を封じ込め始めた。その最たるものが、武田鉄矢の「テレビが1日6時間放送をやめる覚悟がないなら原発再稼働反対をいうべきではない」発言だろう。

 この発言自体は前述したようになんの根拠もないが、背景に「原発の再稼働が止められたら自分たちの既得権益がおびやかされる!」という恐怖があることはひしひしと伝わってくる。

「決して損得だけで物事を考える人間になるな!」って、金八先生は言っていましたがね。
(田部祥太)