人の腸には、約1000種類、合計で100兆個以上の細菌が生息しているとされる。その中には、人体に有害な悪玉菌もいれば、良い働きをする善玉菌もいる。
 腸内環境の説明によく使われるが、それらの善玉菌と悪玉菌を分類するとき、善玉は健康維持に貢献し、悪玉は害を及ぼすと位置付けられている。医学書によると、その考えは19世紀の終わりに医学博士のイリヤ・メチニコフが発表した「自家中毒説」に端を発している。

 当時、小腸内で毒性を発揮する化合物が生産されることが発見され、それが腸から体内に吸収され、さまざまな疾患や老化を生む原因になると考えられた。
 「さらにメチニコフは、腸内の腐敗は寿命を短くし、その腐敗を予防すれば老化を防げるとしました。そしてヨーロッパ各地を遊説中に、長寿国だったブルガリアでヨーグルトが摂食されていることに気づき、そこから、分離した善玉菌である乳酸菌を摂取することで腸内の腐敗物質が減少することを確認したのです」(健康ライター)

 こうした研究の積み重ねで、腸内細菌と宿主であるヒトとの共生関係が徐々に明らかになり、加えて腸内細菌のバランスが悪くなると、感染症や、下痢、腹痛、潰瘍性大腸炎などの原因になりうることも明らかになった。
 やがて腸内細菌のバランスを変化させることによって健康改善に繋がるという考えが支持されるようになり、がんや心臓病、アレルギー、痴呆症のような病との関連性が高いこともわかってきたのだ。
 そして現代、悪玉を減らし善玉を増やす治療で病気を予防、治療する--。これが「腸内フローラ」のコンセプトだ。

 消化器系の専門医は「炎症性腸疾患に悩んでいる人も、便移植治療で道が開けそうだ」と言い、さらにこう述べる。
 「例えば腸内にいるバクテリア菌。この菌は腸内で短鎖脂肪酸という物質を増やし、脂肪の蓄積を防ぐ上、脂肪を燃焼させる重要な働きをする。これを増やせば肥満の解消に繋がるし、インスリン分泌も活発化するので、糖尿病にも効果を発揮します。また、ある細胞は動脈硬化を誘発するTMOという物質を抑制することもわかってきましたが、親が脳梗塞などで倒れ、自分も遺伝の恐れがあると思っている人も、バクテリア菌を増やすことで発病を防ぐことが可能になります」
 また別な医療関係者も、アレルギー性皮膚炎やスギ花粉症の患者は、ビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌により症状を抑え、うつ病も脳の活発化につながる細菌を増やすことで症状を改善できることが、マウスによる実験で明らかになっていると語る。

 では、具体的にはどのような治療するのだろうか。消化器系治療医はこう語る。
 「健康な人の便を生成して患者さんの腸内に入れる“糞便移植法”です。米国では既に潰瘍性大腸炎の治療などで実施されている方法で、内視鏡を使って肛門から注入します。日本では口から悪玉菌を殺す抗生物質などを飲み、並行して糞便移植法を行う臨床研究の段階ですが、効果が上がっているとの報告が相次いでいます」