昨年の追加金融緩和以降、年初に原油安という材料が加わったことで日本の株式市場は今世紀の最高値を更新。しかし、庶民が感じる景気回復とは遠いものがある。

3年目に入った日銀の異次元緩和

日銀の異次元金融緩和が4月で3年目に入る。期限内の「物価目標2%」達成は無理だったが、「景気の緩やかな回復基調」は続いており、株価も今世紀最高値を更新するなど全体の流れはおおむねいい方向に向いている。必ずしも政策当局のシナリオ通りではないが、世界が低成長時代を迎える中で、国際紛争、原油安などの不確定要素も増えている。柔軟なプラン変更も必要かもしれない。

■原油安の景気回復は否定

大胆な金融政策がもたらした円安と株高、機動的な財政政策という2つの矢の効力によって、アベノミクスの初年度は政策当局のほぼ思惑通りに進んだ。

しかし、円安で伸びると期待されていた輸出は、生産拠点の海外移転や人手不足による供給力不足などもあって、伸びなかった。賃上げ不足の中で実施された4月の消費税増税の反動を受け、アベノミクスは2年目で失速。2度目の増税は延期された。

現在、景気の回復基調が続いているのは原油安という予想外のボーナスに恵まれたためだ。これを利用して第3の矢である成長戦略に結びつけるという方策もあるだろうが、政府・日銀のシナリオとは異なる。アベノミクスはデフレ脱却による景気回復を狙っており、日銀は原油価格の上昇を望んでいる。

しかし、政策当局は「円安による輸出増」「消費税増税の反動」を読み違えた。「デフレ脱却による景気回復」も怪しさが拭いきれない。GDP(国内総生産)デフレーターがプラスになるなど、政府はデフレ脱却に自信を深めているが、一般庶民に景気回復の実感はない。

■シナリオは正しいのか

当初は驚異の目で見られた日銀の大規模金融緩和だが、今や世界のトレンドだ。低成長克服の手段として、カナダ、豪州、中国、欧州などが次々と導入し、心理的効果は薄れている。影響度合いを増すためには緩和規模の拡大が必要だが、副作用もある。また、規模が大きくなるほど、国債購入の停止、保有国債の処理という出口戦略は難しくなる。

副作用の代表は通貨安競争だ。自国の輸出関連企業の業績回復には手っ取り早い手段で、円高に青息吐息だった輸出型日本メーカーは、輸出数量が増えていないが、ドル・円相場が4割下落しただけで史上最高益が続出し、株価も急騰。納税額も増えた。

もちろんデメリットもある。現在の円相場の水準は、米国を中心とする国際金融界も許容範囲としているが、かつては戦争を招いた近隣窮乏化策は国際社会のあつれきを呼ぶ。すでに、アジア各国からは円の切り下げに対して懸念の声が強まっている。

また、景気失速の引き金を引いた個人消費の低迷も円安が招いた一面がある。輸入物価の上昇で、株価とは無縁の一般庶民の実質所得はマイナスとなった。回復には春闘で十分な賃上げがなされる必要があるが、そうでなければ実質所得は14年度に続いてマイナスとなる。

追加緩和が実施されれば円安に拍車がかかることは必然だが、果たして、デフレ脱却が景気回復をもたらすというシナリオは全国民にとって正しいのか。また、現実のものとなるまで庶民は我慢できるのか。

谷口正晃
Masaaki Taniguchi
産経新聞社経営企画室長。
経済部記者として流通、IT、
総務省、日銀、財務省などを担当。
シリコンバレー特派員、
経済本部長などを経て現職。


この記事は「ネットマネー2015年5月号」に掲載されたものです。