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○海の砂漠化、サンゴ礁の白化を救う「スーパー褐虫藻」とは?

生物の能力は人間の想像を遥かに超えているのかもしれない。他の生き物と共生したり、時に利用したりしながら、生きるしたたかさを持ち、極限環境でも死なない術をもつ。しかし地球環境の悪化の影響も確実に受けている。そうした生き物の「多様性」や「生態」に今、注目が集まっている。

「ゲノム解析技術が進歩し、細胞もヒトも同じという普遍性を知ったうえで、やはり多様な生き物を見なければ生命現象はわからない」とJT生命誌研究館館長の中村桂子博士はいう。3月22日に行われた第18回 自然科学研究機構シンポジウム「生き物たちの驚きの能力に迫る」では第一線の生き物研究者や昆虫・植物写真家らが、最新の研究や活動について講演を行った。その内容を紹介していく。

○2030年までに世界の60%のサンゴ礁が失われる!?

サンゴ礁は美しい海の代名詞だ。しかし今、世界のサンゴは危機的な状態にある。「サンゴの白化」だ。浅瀬に生息するサンゴ(造礁サンゴ)は世界で800〜1000種類あり多様な形や色をしているが、死にかけたサンゴは白化する。基礎生物学研究所の高橋俊一 准教授によれば「現在、世界の30〜40%のサンゴ礁が白化し、沖縄のサンゴ礁も白化のダメージを受けている」という。原因は地球温暖化による海水温の上昇と見られ、温暖化が今のペースで進めば、2030年までに世界の約60%のサンゴ礁が失われるというレポートもある。

サンゴ礁の白化は「海の砂漠化」とも言われ、サンゴ礁に生きる海の生態系に大きな影響を与えてしまう。何とかサンゴの白化を抑える方法はないものだろうか? その解決策につながる研究を行っているのが、高橋俊一准教授だ。

○サンゴ白化の原因は、共生する「藻類」にあった!

詳しい説明に入る前に、意外に知らないサンゴの基礎知識を。

【1】:サンゴは植物ではないその形状から植物と思われがちだが、実は動物だ。基本単位はポリプで、私たちが見ているサンゴはポリプが集まった集合体だ。ポリプには触手があり、餌をとって口に運ぶ。ポリプの下に骨格を作る。

【2】:サンゴの色は、共生している褐虫藻(かっちゅうそう)の色で決まるサンゴは褐虫藻と呼ばれる単細胞の藻類と共生している。共生したほうが互いに生きやすいからだ。「サンゴが生育している環境にはサンゴの餌になる生き物があまりいません。サンゴは動物だから餌がないと生きていけない。体内に褐虫藻を持っていれば、褐虫藻が光合成をして栄養を提供してくれる。一方、サンゴは褐虫藻に無機塩類を提供します。これは植物を栽培するときの肥料のような役割をする。つまりお互いに助け合っているというわけです」と高橋准教授は説明する。

そして高橋准教授によると「サンゴには元々色はない。サンゴの色は共生している褐虫藻の色なのです」とのこと!

では、サンゴの白化はなぜ起きるのだろう。白化は2つのメカニズムで起こると考えられている。1つは「共生していた褐虫藻がいなくなる」こと。そしてもう1つは「褐虫藻の色素がなくなる」こと。後者について、高橋准教授は研究を行っている。

研究の結果わかってきたのは、サンゴの白化が起こる前に、高温によって褐虫藻の「光合成装置(PSII)」が壊れることだった。さらに調べていくと、壊れることが問題でなく「壊れた装置の修復」が進まないことが問題だったという。「たとえば車のエンジンが壊れたときに、壊れたパーツを取り外して新しいパーツと取り替えますよね。この新しいパーツを作るステップが、水温が高温になると止まることを見つけたのです」(高橋准教授)。

サンゴの白化は、高温で褐虫藻の光合成装置(PSII)が壊れ、修復が進まないために、光合成色素をもつアンテナタンパク質が失われることが原因だった。サンゴ白化のスピードは早く、高温にすると24時間でほとんどのアンテナたんぱく質が失われ、どんどんサンゴの色が抜けていくそうだ。

○サンゴの白化を救う救世主とは?

しかし、このサンゴの白化を食い止める「救世主」がいた! 褐虫藻の中には高温でも色素がなくならない、「高温に強い」褐虫藻もいるという。サンゴが、高温に強い褐虫藻を取り込むことができれば、たとえ温暖化が起こってもサンゴの白化から免れることができるのではないか。 

だが、ことはそう簡単ではなかった。「褐虫藻には多くのサンゴ種と共生できるものもあれば、限られたサンゴ種にしか共生できないものもある。サンゴも同じです。我々人間だってストライクゾーンの広い人と狭い人がいますよね」(高橋准教授)

つまり、「高温に強い」だけでなく、どんなサンゴとも共生できる「好みの広い」褐虫藻が、サンゴを白化から救うために必要なのだ。両方の特徴を持つ褐虫藻を探すため、高橋准教授が研究に活用しているのがモデル共生体のセイタカイソギンチャク。サンゴと同様に褐虫藻を体内に共生させている生物で、サンゴよりも格段に飼育しやすく研究室での実験に適した生物だ(サンゴと同じ刺胞動物門に属している)。

研究の結果、「好みの広い」褐虫藻の特徴が見つかったという。今後はこの特徴をもとに、高温に強く、好みの広い「スーパー褐虫藻」を見つけ、まずイソギンチャクに共生させて実験。イソギンチャクで白化が起こらないことが確認できたら、次はサンゴの実験に進む予定だ。

「サンゴに『スーパー褐虫藻』を共生させて、高温にしても白化が起こらないことが確認できたら、サンゴ礁の保全に利用できないかと考えています」と高橋准教授。スーパー褐虫藻が見つかれば、サンゴの白化が予防できるし、たとえ白化が起こった後でも、すみやかにサンゴに取り込ませて、白化したサンゴを救出できる。美しいサンゴ礁を次世代に残すカギを握るという重要な使命を担うのは、わずか数ミクロンの褐虫藻なのである。

○高校生記者が、イソギンチャクに共生する褐虫藻を観察

高橋准教授の講演を聞き、「共生ってどういうこと?」「褐虫藻ってどんな生き物?」と興味がわいた高校生記者が、実際にソギンチャクに共生する褐虫藻の観察を行った。参加したのは生き物に関心がある4人の高校生。中には大阪から駆け付けた参加者もいた。   観察したのは「褐虫藻と共生させた状態のイソギンチャク」「共生させていない状態のイソギンチャク」、「褐虫藻」の3種類。高橋准教授からは「褐虫藻はイソギンチャクのある特定の場所にいます。それを見つけてください」というお題が。

最初は慣れない手つきで、高倍率の2種類の顕微鏡を恐る恐る触っていた高校生たちも大学院生の指導ですぐに操作をマスター。褐虫藻がイソギンチャクに取り込まれて、形が丸く変化する様子を発見するなど、高橋准教授も驚くような観察力を見せる。

観察に慣れたところで、褐虫藻が共生する場所を探すため、イソギンチャクの触手をカットしてみた。そして触手の断面を顕微鏡で観察すると…褐虫藻が生息する場所が見えてきた! 埼玉県から参加した村上侑里夏さん(高1)は「高校の授業では顕微鏡のピントあわせが苦手で友達にやってもらっているほどで、生物部にも入れなかった。今日は実際に自分で見られて嬉しい!」と興奮気味に語っていた。

(林公代)