ミランダ・ジュライのアプリ『Somebody』が取り戻させてくれた大事なもの #WXD

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映画監督、アーティスト、作家として活躍するミランダ・ジュライが、今度はスマートフォンアプリをつくった。直接話せない人への言葉を、他人に代わりに伝えてもらう、風変わりなコミュニケーション。本誌VOL.15(3/10発売)の総力特集「ワイアード・バイ・デザイン(WXD)」より転載。

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Miranda July | ミランダ・ジュライ
映画監督、アーティスト、作家。小説集『いちばんここに似合う人』、監督、脚本、主演を務めた映画『君とボクの虹色の世界』など作品多数。最新作の小説『The First Bad Man』が話題に。mirandajuly.com

ミランダ・ジュライがアプリをつくった。作家、映画監督、そして女優としての活動をみても、“テッキー”とは言いがたい彼女にとって、テクノロジーはどんなものなのだろうか。

「道行くある女性が梨をぽろりと落とす。わたしはその梨を拾うのを手伝う。そして、わたしたち2人は別々の方向へ歩いていく。そんな光景をいつも頭に思い浮かべるの」。彼女はこう続ける。「なぜだかわからないけれど、それってとっても人間らしい気持ちにさせてくれる。でもスマホって、そういう気分にさせてはくれないのよね」

ジュライの映画を観たり、彼女の書籍を読んだりしたことがあれば、この答えに納得がいくだろう。彼女にとってアプリ「Somebody」は、テクノロジーによって、現実世界の人と人との交流をファシリテートするものだ。「歌う電報」の21世紀版といえばいいかもしれない。

Somebodyの機能を説明しよう。友達(宛先)を選択しメッセージを送信するのだが、そのメッセージは直接送信されるわけではない。友人の周囲にいるアプリユーザーを選ばなければならないのだ。

例えば、自分の兄弟にメッセージを送信する場合、その兄弟の近くにいるユーザーが、あなたの兄弟を見つけて、「サム? わたしよ、リズよ」と言ってくれる。さらに指定した行動もしてくれる(ハグ、キス、コーヒーを買ってあげる、など)。スマホでコミュニケーションしながら、人間のあたたかさを付け加えることができるというわけだ。

「スマホなしの生活なんて考えられないけど、スマホが大切な喜びをもたらしてくれているわけでもない」とジュライ。「携帯電話にどんな価値があって、どうすればその本当の価値を取り戻せるかを考えたの」

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ボーイフレンドに別れを告げるために、彼女はアプリを立ち上げた。

ジュライがアプリをつくった経緯は、至ってシンプルだ。

「ある晩、アプリについて考えようと思って、友人たちとあれこれ話していたのよ」。そのとき、誰かが歌う電報について触れた。歌うメッセンジャーが、見知らぬ人に個人的な情報を届けるように、出会うはずのない2人がテクノロジーによってつながる方法があるのではないか、とジュライはひらめいたのだ。そしてファッションブランドのミュウミュウが、アプリのプロモーションムーヴィーだけでなく、開発にも出資した。

アプリはまだ、あまりスムーズに作動しない。筆者が週末、友人とSomebodyを試してみたところ、いくつか問題が発生した。誰かの兄弟のクリストファーにハグとメッセージを届けるために、彼を探してえんえんと近所を彷徨ってしまったのだ。彼は200mも離れていないところにいたのに、わたしたちに自分の正確な居場所を伝える手段がなかったのだ。わたしたちはバーやレストランを訪ね歩き、彼の写真をいろんな人に見てもらった。でも結局、クリストファーを見つけることはできなかった。つまり、ほかの誰かがメッセージを届けてくれるまで、メッセージは宙ぶらりんの状態で、永遠に彷徨い続けてしまうということだ。

これには少しイライラしてしまったけれど、人同士のアナログな交流のありようをかなり的確に表現しているともいえる。Somebody上で誰かに出会うということは、セレンディピティ、つまり、適切な時間に適切な場所にいるちょっとした奇跡なのだ。

ジュライは、電子メールのようなコミュニケーションとしてSomebodyを考えてはいない。それは大規模なパブリックアートプロジェクトであり、別の人間のパーソナリティを身につけ、見知らぬ人とつながるために、人がどれほど能動的になれるのかを見極める実験なのだ。

「コミュニケーションがテーマではないの。だって伝達手段としてはだいぶ不格好でしょ」と、彼女は認めた。「むしろ『経験』が大事なのよ」

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