藤本耕平さん

新卒社員がやってくる4月。

ゆとり世代」と呼ばれる若者が職場に仲間入りしたわけだが、新しい価値観をもつ彼らに先輩や上司となるアラサー世代はどう接したらいいのだろうか。

大手広告代理店「アサツーディー・ケイ」にて、学生メンバーで構成する若者マーケッター集団「ワカスタ(若者スタジオ)」を創設。学生と共同で商品開発やキャンペーンなどを行う傍ら、若者の生態を解説した『つくし世代』(光文社新書)を上梓した藤本耕平さんに話を聞いた。

今の若者は「尽くし、尽くされること」が喜び

――「つくし世代」という言葉は、植物の土筆(つくし)を思い浮かべましたが、尽くし、尽くされるということから来ているんですね。

藤本耕平さん(以下、藤本)
:今の若者は、誰かのためになることが喜びなんですね。最近の若者は「ゆとり」「さとり」とネガティブに捉えられることが多いですが、もっとアクティブでエネルギッシュな一面も持っていることを、世の中に伝えたくて、彼らのポジティブな部分にフォーカスを当てて「つくし世代」と名付けました。後付にはなりますが、新しい芽吹き、価値観と「つくし」という言葉がかかっているとも言えるかもしれませんね。

――この本を書こうと思ったきっかけは何ですか?

藤本:僕は社内で「ワカスタ」という組織を立ち上げて、そこで若者と接しているんですが、そんな中で、若者って今の世の中で生きて行くことに関しては、上の世代よりも長けているところがあるなと思ったんです。そういう彼らのポジティブな価値観を本に書けば、もっと世の中が元気になるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

3年で会社を辞めるのは自分が確立していて見切りが早いから

――今、30代中盤から40代前半くらいの人って、上の世代と下の「つくし世代」の価値観との板挟みでもあるかと思いますが、藤本さんはどういう立ち位置ですか?

藤本:僕も35歳なんですけど、どっちかというと「つくし世代」寄りですね。上と下の間のグラデーションの中にいます。僕らの世代には中田英寿さんがいて「自分探し世代」なんて言われました。その上になると、欧米の文化や流行っているものがステイタスだった感がありますが、僕らの世代は、自分にとってそれが本当にいいものなのか自問自答していました。それが、「つくし世代」になると、自問自答するまでもなく、これをやりたい、これがいいということが決まっているんだと思います。「若者が3年で見切りをつけて会社を辞める」と最近言われてますが、自分のやりたいことと業務のギャップを感じるとスパッとやめてしまうというのは、裏を返せば自分のやりたいこと、やりたくないことが決まっているからとも言えるんですね。

アドバイスするなら仲間目線で「一緒に頑張ろう」

――とはいえ、3年で辞めることがいいときと悪いときもあるわけで。そういうときに助言してあげたくなるときがありませんか?

藤本:昔であれば、目の前の苦労も将来への投資、修業と思って耐えることができたんですが、今は右肩上がりの世の中ではないので、それがやりにくいんですよね。でも、辞めるのが必ずしもいいわけではないときに、こちらが助言してあげるならば、「あなたたちの味方はいるよ、一緒に頑張っていこう」ということを見せることではないかと思うんですよね。

僕が実践しているのは、本にも書きましたが「それな」という共感の言葉を使うことです。ちゃんと肯定した上であれば、アドバイスも聞いてくれるし、中に入っていけます。彼らは自分の仲間には尽くし尽くされたいと思うので。でも、それは同じ仲間内でないといけないんですね。

――世の中には、わかりやすい得もあれば、今は見えないけど将来的に得になることもあるとは思うんですが。

藤本:確かに彼らは、一日に膨大なLINEを見ないといけないとか、目の前のコミュニティを円滑にしておくことにエネルギーが注がれるので、遠い将来のことに時間を割けないということはあるかもしれません。だから、そこでこそ大人がわかりやすく、ちゃんとした理由を示してあげないと、と思います。例えばコピー取りなんかを新人が頼まれると、「なんでやるんですか?」と聞いてくることがあると思うんです。でも、それを「生意気だ」と頭ごなしに彼らを否定するのではなく、ちゃんと説明して、自分がやる理由をつくってあげれば、態度が変わってくると思うんですよ。

>>【後編はこちら】なぜ理想の上司が「松岡修造」なのか 新入社員に好かれる先輩の資質