Amazon並みの流通、最新のロボティクス、そして、IDEOに学ぶデザイン思考。時代遅れのUXしか提供できていなかった薬局に、「PillPack」がデザインをもち込む。本誌VOL.15(3/10発売)の総力特集「ワイアード・バイ・デザイン(WXD)」より転載。

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ロボットが薬をパックすることで薬剤師はより多くの時間を顧客の対応にあてられる。

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PillPack | ピルパック
MITのイヴェント「Hacking Medicine」で出会った薬剤師のT・J・パーカーとエンジニアのエリオット・コーエンの2人が、2013年1月に起業。IDEOのインキュベータープログラム終了後には875万ドルを調達し、現在米国内でのサーヴィス提供地域を拡大している。www.pillpack.com

PillPack」のサーヴィスは、服用の日時を印刷したプラスチックの袋に、1回の服用ごとに薬を小分けして、ユーザーに届けるものだ。

月20ドルで、Amazonプライムのように処方薬をユーザーに届けるこのシンプルなイノヴェイションは、大量の薬の服用に苦労している年配者や慢性疾患をもつ人たちの生活を快適にする。いわば薬の通信販売だが、PillPackは大手の薬局と同様に正規の資格をもち、31の州で営業する企業だ。

PillPackはロボットたちによって支えられている。ニューハンプシャーにあるオフィスの大きなベージュ色の機械は、たくさんの錠剤で満たされ、それらはプラスチックの袋の中に調合されていく。1回分パックのラインはその後、品質管理を受けもつもう1体のロボットを通り抜け、薬剤師チームによるダブルチェックを受けたのち、顧客に配送される。

T・J・パーカーはPillPackの共同創業者兼CEOであり、高校時代、父親が経営する薬局で働いたこともある薬剤師の2代目だ。パーカーは、マサチューセッツ芸術大学と食堂を共有するマサチューセッツ薬学大学で学んだ。

「食堂に座っているときにふと、『芸術大学にこそぼくの仲間がいる。ここで学ぶべきだ』と思ったのです」

彼は可能な限り芸術大学のクラスも履修し、Twitterの創業者ジャック・ドーシーのように服飾パターンのクラスさえも参加した。

通信販売にすることで、PillPackは薬剤を無駄なく仕入れることができる。実店舗の薬局では2週間薬の受け取りがない場合、薬を再度包装しなくてはならない。これは不正行為を防ぐための法律だが、PillPackは顧客に直接配送するので効率的だ。パーカーはまた、薬剤師はより人間的な業務に携わるべきだと考える。ロボットが薬をパックすることで、薬剤師はより多くの時間を顧客の対応にあてられるというわけだ。

「デザインをしたい」という思いと裏腹に、パーカーは自分のスキルのなさを自覚していた。そんなときにデザインファーム「IDEO」のボストンオフィスが支援をしてくれた。PillPackの株と引き換えに、ウェブサイトの登録プロセスからパッケージのディテールにいたるまでのフィードバックを提供してくれたのだ。

サイトには大きな改善が施された。当初のサイトでは革命的なパッケージに焦点をあてていたが、これはHCD(Human-Centered Design)を実践しきれていない新人デザイナーがよく犯す過ちだ。

「IDEOは登録が完了するまでの入力プロセスを、10から3にまで減らすのを手伝ってくれました」(パーカー)

医薬品業界は、その市場規模の大きさにもかかわらず、この数十年ほとんどと言っていいほどイノヴェイションが起きていなかった。心臓発作に悩まされている人の約4分の1が、処方された薬を薬局に受け取りにいっていない。処方された薬を使用していない患者のコストは、年間2.9億ドルに上る。そんな状況を、PillPackはAmazonのような手軽さで変えてくれるのかもしれない。

顧客が処方に従う意志があるにせよないにせよ、PillPackはデザイン思考と製薬市場の潜在力を明らかにした。うつ病治療に使われるアリピプラゾールの売り上げは年間64億円であるのに対し、音楽ダウンロードに消費される金額は53億円だ。ひとつの医薬品の売り上げはデジタル音楽業界全体より大きい。新しい音楽エクスペリエンスを生み出すために投下されたエネルギーを考えてみてほしい。

それと比べて製薬業界ははるかにサーヴィスが行き届いていない世界だ。浣腸薬の調剤は、エミネムのラップアプリをつくるほど魅力的ではないかもしれない。けれども、それが重要度において劣っているわけではない。いやむしろより重要かもしれない。

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