手術では治らない加齢黄斑変性 shutterstock.com

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 医療啓発番組の本来の目的は、疾患の特徴的な症状や治療法を紹介し、早期発見や早期治療に繋げることです。または、再生医療など現在話題になっている専門的な情報を分りやすく伝えることです。
 
 しかし、常に聴視者に本来の目的通りに情報が伝わっているかと言うと、現実的には違う捉えた方をされていることも多々見受けられます。原因の一つには、医療用語が専門的で理解しにくいことが挙げられます。このことは、普段の診察室の中でも起こり得ることであり、自分の病気の説明を受けても十分に理解できない原因にもなっています。そんな時に、医師は分かりやすい言葉に言い換えたり、例えを使ったりして理解を助けようとしますが、逆に混乱の原因になることもあります。TV番組中でも、理解を助けるための表現を使うことが見受けられますが、聴視者の捉え方は、さまざまです。
 
 最近経験した例では、「目やに」と「ドルーゼン」という二つの言葉の混乱でした。「目やに」という言葉は多くの人は知っていますが、医学的には眼脂(がんし)と呼ばれます。眼も皮膚と同じように代謝活動をしており、角膜や結膜から脱落した古い細胞が「目やに」の中に含まれています。また、結膜炎になった場合は、細菌やウイルスあるいは白血球が「目やに」に含まれます。更には、眼に入ったゴミも含まれます。

 一方「ドルーゼン」は、眼底の網膜内にある視細胞が産生する老廃物です。眼底検査では、白色の沈着物として観察され、多数ある場合は徐々に加齢黄斑変性になることがあると言われております。つまり「目やに」も「ドルーゼン」ともに"ゴミの集まり"のような物です。

 あるTV番組で、医師が「眼底の目やにみたいなドルーゼンがある人は、加齢黄斑変性になりやすい」と理解を助けるような表現を用いて説明していました。ところが、その番組を見た人の中には「目やにがある人は、加齢黄斑変性になりやすい」と解釈してしまった方がいたようです。

 番組後、「最近、目やにが多いから私は加齢黄斑変性だろう」と眼科を受診したそうです。担当した眼科医は、目やにと加齢黄斑変性は関係ないと説明しても、「昨晩の偉い先生がTVで言っていました。あなたは勉強不足です。」と言って帰られたそうです。たぶん別の眼科を受診して同じような問答になったことでしょう。

加齢黄斑変性と黄斑上膜を混同して説明したTV番組

 もうひとつはごく最近に経験した例です。
「加齢黄斑変性が手術で治りました」という番組があったようです。しかし、その番組を見ていた眼科医によると、提示された眼底所見は「黄斑上膜」という別の疾患で、手術も黄斑上膜の膜を剥がす手術だったそうです。

 加齢黄斑変性は、物を見る中心部である黄斑に萎縮や異常な血管ができる病気です。眼球の内側にはカメラのフィルムに相当する網膜という組織があり、その中心部を黄斑と呼びます。カメラのフィルムと網膜の違いは、フィルムはどの部分でも同様に映りますが、網膜は中心では鮮明な映像が映りますが、中心を外れるとぼんやりとしか見えていません。この病気にはいくつかの治療法がありますが、現在は良好な視機能を取り戻すことは難しい病気です。進行すると失明することもあります。

 黄斑上膜という病気は、黄斑部にセロファン状の膜ができる病気です。膜ができる原因はさまざまですが、主に加齢でできます。黄斑上膜は、手術適応があれば、手術によって比較的良好な視機能が取り戻せる病気なのです。

 この番組を見ていた聴視者は、「黄斑変性は手術で治る病気」と思ったことでしょう。何故、このような間違った内容を放送したかは不明ですが、聴視者が間違いに気がつくことは無く、手術をしてくれる医師を訪ね歩くことになってしまいます。

鵜呑みにしてはいけないTV・インターネットの情報

 TV番組がどの程度の専門医の監修を受けているかも非常に大切です。中途半端な内容により、啓発とは逆に間違った知識を伝えることもあります。本来は、"診察を受ける動機づけ"にしてもらうべき啓発番組で、時に間違った方向に行ってしまうこともあり得るのです。

TVで啓発番組があった後の外来では、患者サイド医師サイドで次のような傾向が見られます。
<患者サイド>
1.紹介された症状に思い当たる点があると、診察を受けたくなる。
2.紹介された病気だと思い込んでしまう。
3.紹介された薬を使ってみたくなる。処方を強く希望する。
4.TVの説明を鵜呑みにしている。違う説明を受け付けない。

<医師サイド>
1.自分の説明は聞いてもらえないだろうと思ってしまう。
2.紹介された病気が無い場合は、納得してもらえないだろうと思ってしまう。
3.不必要な投薬や治療を強いられる事に嫌気がさす。

 TV・インターネット・雑誌の情報を鵜呑みにしてはいけません。内容はあくまでも一般的な物であり、中には間違った情報が含まれている可能性もあります。自分を直接診察した医師に相談するなどして真偽の確認を行ってください。可能であれば、受診する時に、家族や友人など信頼できる第三者に同席してもらい、医師の話を一緒に聞いてもらうと良いと思います。

高橋 現一郎(たかはし げんいちろう)
東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授
1986年東京慈恵会医科大学卒業、98年東京慈恵会医科大学眼科学教室講師、2002年Discoveries in sight laboratory, Devers eye institute(米国)留学、06年年東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科診療部長、東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授、2012年より東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科診療部長。

日本眼科学会専門医・指導医、東京緑内障セミナー幹事、国際視野学会会員。厚労省「重篤副作用疾患別対応マニュアル作成委員会」委員、日本眼科手術学会理事、日本緑内障学会評議員、日本神経眼科学会評議員などを歴任。