女性漫画家の第一人者、槇村さとるさんはフィギュアスケートを描いて35年。観戦歴は40年以上! この競技の魅力や選手について、ユニークな視点で大いに語ってくれた。

■フィギュアスケートの醍醐味は、スピードと重力

 私が競技としてフィギュアスケートを見始めたのは、中学3年生だった時。札幌五輪のジャネット・リン(※1)からです。彼女のスケーティングは今見てもきれいですね。
※1 アメリカのフィギュスケート選手。1972年札幌五輪、女子シングルで銅メダルを獲得

 母親の影響で、その前からバレエは見ていました。バレエで、パッとポーズを決めるじゃないですか、それをフィギュアスケートでは、ものすごいスピードでやるでしょう。子どもながらに、それが心に響いたんでしょうね。その後、取材で間近に見て、さらにそのスピード感がすごいなと思いました。

 60m×30mのリンクをシャーッと来て、あっという間に向こうに行ってしまう。あのスピード感はテレビではわからない。そして"重力"。そのスピードに乗ってのジャンプだから、すごい落ち方をするんですよ、そこに、この競技の核心があるし、魅力なんですよね。バレエも重力との戦いですが、自力で走った勢いだけだから、パワーが全然違う。

■伊藤みどりから、羽生結弦まで

 私はこの人間の体が重力に逆らって跳ぶジャンプのすごさにショックを受けました。この重力とスピードの面ですごいと思った選手は、(伊藤)みどり(※2)ちゃん。今、映像で見てもそうですが、男子もびっくり。ちょっと破壊的とさえ思える迫力がありました。マツコ(・デラックス)さんも、その魅力を熱く語っていて、彼女を尊敬しているのが伝わってきます。
※2 1992年アルベールビル五輪、女子シングルで銀メダルを獲得。女子選手として、トリプルアクセルジャンプに初めて成功

 私もトリプルアクセルを見たさに、1回会場にも行ったことがありましたね。その時ではなかったけど、ジャンプを飛んで場外まで自分が行っちゃうことがあって......それだけ高いジャンプだったし、距離もすごかった。今の選手にはいないですよ。

 他に記憶に残っているのは、男子ではイギリスのロビン・カズンズ(※3)。異様に手足が長くて、姿勢がまっすぐできれいな人で、好きでしたね。長野オリンピック(1998年)のフィリップ・キャンデロロ(※4)も懐かしい。当時、女性漫画家たちが粟立つというか、ザワザワでした。『三銃士』の『ダルタニヤン』を演じたり、マンガっぽい感じで。ラテンの人によくありがちな性格というか、お客さんがいてなんぼ、みたいな(笑)。今、活躍中のハビエル・フェルナンデスに近いでしょうか。
※3 イギリスのフィギュアスケート選手。1980年レークプラシッド五輪、男子シングルで金メダルを獲得
※4 フランスのフィギュアスケート選手。1994年リレハンメル五輪、1998年長野五輪、男子シングルで2大会連続銅メダルを獲得

 (ステファン・)ランビエール(※5)もよかったですね。ちょっといい男だったし(笑)。彼は本当に踊りだけでいい。最近はジャンプの回転数が注目されますけど、彼は飛んだり、回ったりする必要ないのにと思っていましたから。私、選手としてはそういうタイプが好きなんです。
※5 スイスのフィギュアスケート選手。2006年トリノオリンピックで銀メダルを獲得

 そういう意味で、日本男子で好きな選手は高橋大輔くんでした。彼の魅力は"ダンサー"なところです。ふつう「踊る」と「滑る」は違うもの。でも、彼の場合は、滑って移動していることをあまり感じさせないというのが、すごいところです。たいていはザーッと技があって、つなぎがあってという構成になりますが、彼は曲の中で生きてるっていう感じで、その境目がわからない。私は、彼を本当のダンサーだと思いますね。

 本当にいい作品も多いですよね。シーズンごとにまったく違う曲にチャレンジするじゃないですか。私が毎年作風の違う連載をしろって言われたら結構困ってしまいますよ(笑)。   

 絵のタッチと同じように、本人の体が持っているタッチとか、調子というものは、個人それぞれ限られていると思うんです。合う音楽も決まってきて、みんな勝ちたいから、そういう曲を選ぶでしょう? でも、高橋くんの場合は、曲と一体化して、自分のものにしてしまうことができる。この人はどれだけの表現力を持っているの!?と思いましたよね。

 数あるプログラムの中でも(2007−08シーズンのニコライ・)モロゾフと作ったヒップホップ調の『白鳥の湖』は最高。あの超絶鬼ステップは、もう忘れられません。

 一方で、(2011−12シーズンの)『ブルース・フォー・クルック』ではブルースで踊って、止まりそうなスケーティングをやることもできた。(エフゲニー・)プルシェンコもそうですけど、曲の中で止まることもできて、メリハリよく動ける人は上手ですよね。

 羽生選手の『ロミオ+ジュリエット』(2011-12シーズン)を見た時はびっくりしましたよ。何だろう、キャラがぴったり合っていましたよね。今みたいに、体力温存したり、調整できる羽生くんじゃなかったじゃないですか。毎回、何でも120%という感じで、終盤は足もベタベタ。だけど、彼の気持ちのほうに、女の人は母性本能がバーッと引っ張られちゃって、ハラハラしながら見ていて。最後倒れると『ギャーッ』となってしまう......。何なんだっていうことですよ(笑)。

 あんなに気合いが、外に上手に出てくる人というのもめずらしいと思っていて。普通はもっと空回りしちゃうというか。ひとりでナルシスティックになってしまうものなんです。そこが、男子フィギュアスケーターの難しいところでしょう? それが、彼の場合は妙にはまっている時期がありましたね。

 現在もスケーターの成長を描いた作品『モーメント』を連載中の槇村さん。フィギュアスケートに対する思い入れは人一倍。話はまだまだ尽きなかった。

【プロフィール】
●槇村さとる
東京都生まれ。1973年『白い追憶』(別冊マーガレット)でデビュー。1978年、フィギュアスケートを題材にした『愛のアランフェス』を連載開始。代表作はドラマとしても人気を博した『イマジン』『おいしい関係』『Real Clothes』など。コミックのほかにも対談集やエッセイも上梓している

辛仁夏●文 text by Synn Yinha