ソチ五輪後の14〜15シーズンは、平昌五輪に向けて大きなルール変更があった。その根底には、フィギュアスケートを発展的に面白い競技にするために「質の向上」をさらに追求するという考え方があるという。元国際審判員で解説者の杉田秀男氏に、主なルールの変更点とその影響について聞いた。

「ルール改正は細かく言うと毎年行なわれています。ルールブックに載るようなものは総会で決められますが、細かな動きやテクニカルな部分に関しては、技術委員会で検討して具体的な改良点を詰めていくわけです。技術委員会のメンバーには、インストラクター(コーチ)や選手の代表などが入り、様々な意見を出し合い、それらを考慮して検討されていきます。少しずつ、より高度な内容を目指しての改善という形で検討されるわけです。特に音楽と切り離せないフィギュアスケートは、技術的な面と芸術的な面との両面でよりレベルの高い、質のいいものを作るという難しい目的のためにルールの改訂が行なわれるのです」

 今シーズンの変更点でまず挙げられるのは、30秒ルールの導入だ。名前をコールされてから30秒以内にスタートポジションに立たなければならなくなった。これまでの1分以内から大幅な時間短縮である。シーズン当初はトップ選手でも31秒以上になって1点減点されることがあったが、ほとんどの選手たちはすぐに適応して大きな問題にはならなかった。

「このルール変更によって競技進行がスピードアップされました。観戦する上では良かったのではないですか」(杉田氏)

 今シーズン最大のルール変更と言えるのは、これまで制限のなかった2回転ジャンプで、同じ種類のジャンプがそれぞれ2度までしか跳べなくなったことだろう。これは連続ジャンプにおいて大きな影響が出た。男子では4回転+3回転と3回転+3回転が主流になってきたが、女子は3回転+3回転よりもまだ3回転+2回転が主流だ。それだけに女子では、連続ジャンプの2つ目のジャンプの種類に制限が加わると、組み立てが難しくなる。

 例えば単独ジャンプで跳ぶはずだった3回転ループが2回転になってしまい、その後で予定していた連続ジャンプで2回転ループを2度跳んでしまうと、その連続ジャンプの点数が規定回数を超えたというルール違反(プログラム全体でみると2回転ループを3度跳んだことになる)で0点になってしまう。実際にNHK杯のフリーでは、村上佳菜子が前半に2回転ループを跳び、後半に跳んだ3回転サルコウ+2回転ループ+2回転ループの3連続ジャンプが違反となって0点とされ、技術点の得点が伸びずに7位に終わっている。村上以外にも同じようなケースは起きていた。

「このルールは非常に厳しい部分がありますよね。3回転をやるつもりが2回転になってしまったときに、それに対応する練習をしている選手とそうでない選手がいました。特にパニック状態になったりすると、連続ジャンプの3回転+3回転が2回転になってしまい、結局同じジャンプを3回やってしまうというケースが結構見られました。しかもだいたいそれが連続ジャンプなので得点への影響が大きいわけです。中には3連続ジャンプをやって、その点数がそっくりなくなっちゃうこともある。それがいいジャンプだったりしたら、10点くらいがなくなってしまいます。選手にとってはすごく影響が大きいですね」(杉田氏)

 このルールについては、あまりにもルール違反のペナルティが酷だという意見が出ており、来季からは、連続ジャンプ全体ではなく、該当する3つ目のジャンプの点数のみが無得点になるという再度のルール変更が議論されているという。
 
 ジャンプではさらに厳しいルール変更があった。ルッツとフリップのエッジエラーの厳格化が図られたのだ。アウトサイドエッジを使って踏み切るルッツとインサイドエッジを使って踏み切るフリップを跳び分けることは、技術的には非常に難しいとされている。

「ジャンプの種類として厳然と区別されているのですから、できる選手とできない選手で得点差をつけることはよりフェアな判定につながります。明確なエッジエラーとしてeマークがついた時には完全な減点対象になりますね。基礎点が70パーセントになり、なおかつGOEでも減点になる。ルッツの難しさはリバース(逆回転)の動作なわけです。だから難しい。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を除けば、ジャンプの種類の中で一番難しいのはルッツなんです」(杉田氏)

 ルッツジャンプは得点源として重要なジャンプだが、今シーズンは、逆に跳ばないほうがいいリスクが大きいジャンプとなった。基礎点が高いにもかかわらず、eマークがつけば二重減点になるので高得点どころか全体的な印象も悪くなってマイナスに働くからだ。実際、ルッツジャンプを修正できない選手はプログラムから外すケースが相次いだ。その一方、「最近の米国選手の中には、完全にアウトサイドで跳んでいますよという踏み切り方でルッツジャンプを跳ぶ選手が増えていますね」(杉田氏)という動きもあるという。

 一部に混乱も見られたルール変更だが、選手として、審判員として、指導者として長年この競技に携わってきた杉田氏はこうも語る。

「基本の部分は普遍だということです。羽生結弦のブライアン・オーサーコーチも『必要なのはベーシックスケーティングだ』と言っています。彼らの練習ビデオを見たことがあるんですけど、みんなアイスダンスのフットワークをやっていました。ジャンプも今はいろいろなことをやるようになったけど、基本はフットワークです。フットワークを正しい位置で滑るようにするには、クリーンな動きをせざるを得ない。だから、ダンスの基本のエッジの使い方を練習するのです。時代が変わって技術も変わり、それと同時に表現の部分もどんどんレベルアップしてきているけれど、基本のスケーティングのフットワーク、クリーンな動きというのは今もまったく変わらないんです」

 スポーツ性とエンターテインメント性の2つを併せ持つフィギュアスケート。「より面白く、より高いレベルで」を目的とするルール変更は今後も行なわれるだろう。だがその基本はいつの時代でも変わることはない。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha